ネガティブな数字や情報を開示することで、苦境を乗り切れる確率が上がる
会社が危機になると、「社員に嫌われてでも、会社を維持するためにすぐ経費削減する経営者」と「給与を減らしたら社員がかわいそうだからぎりぎりまで今のままでいきたい経営者」の二つに分かれます。多くの場合、後者のほうが、取り返しがつかなくなるケースが多いのです。そして後者の経営者は、「こんな悪い数字を言ったら社員が辞めてしまうかも」といったように、数字を見せたくないという特徴があります。
一方、前者の経営者は、「うちはこのまま売上が戻らないと1年くらいしかもたない金額しか今ないので、オフィスを安い賃料のところへ一旦移転します。ただ、今金融機関と借入交渉をしていて当面は大丈夫な体制にするので、雇用の件は当面は安心してください。ただ売上を回復させなければいけないので、責任は自分が取るので新事業や新業態のアイデア出しの協力を皆にもお願いしたいです」といったように、割とはっきり現実を社員に伝えます。
実際に数字と言っても、「〇千万円の△△費用……」という具体的な数字でなくても、「このまま売上が3割減のまま回復しないと、来年度の給与はトータルで3割減しないと経営が厳しくなる」というレベルでもいいと思います。人件費の例でいえば、「最悪、今後一律給与を3割カットするか、人員を3割削減という選択をしなければならないかもしれないけれど、なんとか回避したいと思っているので、協力して欲しい」と現実を言ったほうが、社員としてはショックかもしれませんが、黙っていられて突然会社が倒産するよりは、社員のことを考えてくれています。
経営者の方々には、ネガティブな数字や情報であればあるほど、勇気を持ってその状況を社内に共有していただきたいです。社員の計数感覚や危機感を上げるのは、その社員が勤めている会社の数字をリアルに見せてあげることが一番なのです。それを受けて、どう行動すれば数字が改善するかを全社一丸となって考えることで苦境を乗り切れる確率が高まります。
社員の方達も、会社の数字に興味がない人達ほど年齢を重ねるにつれ大変な目に遭っていく可能性が高いので、日頃から会社から発信される情報や数字を正しい理解で認識をし、自分はその情報や数字を受けてどのような行動をすればよいのか、敏感になっておいたほうがいいと思います。
著者プロフィール 流創株式会社 代表取締役 経営コンサルタント/作家 前田 康二郎 数社の民間企業で経理総務、IPO業務、中国での駐在業務などを経て独立。現在は「フリーランスの経理部長」としてコンサルタント活動を行うほか、企業の顧問、社外役員、日本語教師としての活動、ビジネス書やコラムの執筆なども行っている。著書は『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』のほか、『スーパー経理部長が実践する50の習慣』、『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』、『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』『経営を強くする戦略経理(共著)』、『スピード経理で会社が儲かる』、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』、『自分らしくはたらく手帳(共著)』など多数。節約アプリ『節約ウオッチ』(iOS版)も運営している。また、2020年6月26日に新著『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』が発売された。
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