新型コロナウイルスの流行により、図らずも「相続」を意識する機会が増えました。まだ若い独身の方や、お子さまのいない夫婦にとっても相続対策が必要な時代です。本連載では、税理士に寄せられた相談者からの質問をもとに、相続に関するさまざまな疑問に答えていきます。第1回のテーマは「法定相続人の範囲」です。
全世帯の半数以上が「おひとりさま」で亡くなるリスク
はじめまして。税理士の佐々木美佳です。
私も以前は「一人っ子だし、結婚もしていないから相続なんて関係ないわ」と考えていました。死後の諸手続きについても、従妹の子供とか比較的近くにいる親戚が適当にやってくれるだろうくらいの軽い気持ちで、何の対策をする気もありませんでした。
しかし、仕事上たくさんの他人の相続に携わるうちに、死後にはさまざまな役所手続きなど膨大な事務処理が必要で、「おひとりさまこそ対策が必要」という答えにたどり着きました。死ぬ前も死後も誰にも迷惑をかけたくないと考えるのなら、迷惑をかけないためにやっておかなくてはならないことが数多くあるのです。
また令和の時代に入り、日本ではますます単身者世帯が増えています。厚生労働省の行う「2019年国民生活基礎調査」によると、全国の世帯総数5178万5千世帯のうち「単独世帯(単身者世帯)」が全体の中で最も多く、1471万7千世帯(全世帯の28.8%)という結果となっています。そして、夫婦のみの世帯は1263万8千世帯(全世帯の28.7%)。夫婦のみの場合は、配偶者のどちらかが亡くなれば残された夫や妻は単独世帯になってしまいます。つまり、すでに単独世帯の方と合わせると、全体の53.3%が「おひとりさま」として亡くなるリスクを負っているわけです。
今や若いころに「おひとりさま」を謳歌していた方だけでなく、自ら選んだわけでもないのに「おひとりさま」で老後の生活を送り、お亡くなりになって相続を迎える方が日本国民の半数以上となる時代なのです。
この現状を踏まえて「おひとりさま」の将来的な相続問題の不安や疑問を解決していただきたいと願い、皆さんが心配になりそうな事項をピックアップしてQ&A形式によりお応えしていきます。
死を前向きに捉え、安心して人生を全うするために役立てていただければ幸いです。
配偶者は常に法定相続人となる
Q.
私たち夫婦には子どもがいません。遠くに親戚はいますが、こんな私たちにも相続人はいるのでしょうか?
A.
配偶者やお子さま以外にも、相続人になり得る方がいます。民法により、「法定相続人」が定められています。
今回取り上げるのは、「誰が相続人になるのか」という法定相続人の範囲です。
条件によっては親戚が相続人になることもありますが、「遠くの親戚」という情報だけでは判断できません。ご本人との関係を、それぞれ詳しく見ていく必要があります。
民法により定められている相続人を「法定相続人」と言います。それによると、「配偶者」は常に相続人になると規定されています。ここでいう「配偶者」とは、法上婚姻をしている方のことです。つまり、婚姻届けを出していない事実婚や内縁関係、法律上今はまだ認められていない同性同士のパートナーは、現時点では法定相続人にはなれません。