「ジョブディスクリプション」を導入する上で気をつけたいデメリット

「ジョブディスクリプション」もメリットばかりではない。当然ながら、デメリットもあるので留意しておきたい。こちらは、二点ほど取り上げたい。

(1)仕事内容に柔軟性がなくなる
「ジョブディスクリプション」で仕事内容が明確に記載されると、ともすると「これは範囲外だからやらない」と判断してしまう従業員が出てくる。また、類する仕事をしている人がいる場合には、「これはそちらの仕事だ」と押し付けるケースも起きかねない。会社全体で見ても、全従業員が「ジョブディスクリプション」に決められたことしかやらないとなると、経済状況や社会情勢が変わった時に対応していけなくなる可能性もありえる。

(2)ゼネラリストの育成に不向き
「ジョブディスクリプション」は、業務内容を特定の領域に限定する仕組みであるだけに、幅広い業務領域に携わり、汎用的なキャリアを形成したいというゼネラリスト志向の方には向いていない。組織の運営上、ゼネラリストは不可欠となってくるだけに、ゼネラリストを意識した「ジョブディスクリプション」を考える必要があるだろう。

「ジョブディスクリプション」の作り方

 ここからは、実際に「ジョブディスクリプション」の作り方を説明していく。三つのステップを紹介していきたい。

▼対象職務の情報収集・ヒアリングの実施
「ジョブディスクリプション」を作った際に、良く課題として挙がるのが、記述された内容と実際の職務内容に違いがあることだ。また、重要度や優先順位がまったく反映されていないケースも多々ある。その原因の多くは、対象業務に関する情報収集と実務にあたっている従業員に対するヒアリングの不十分さにある。情報収集を行う際は、職務等級や責任、職務内容はもちろん、必要な知識やスキル、権限の範囲などをしっかりと抑えておきたい。また、現場へのヒアリングを行う際には、複数の従業員を対象とするのが適切である。

▼集めた情報の精査
 情報が集まったら、人事や部門のマネージャーなどで精査し、それぞれの職務を遂行するために何をどう行っていくべきかを落とし込んでいく。業務内容をリストアップしたところで、各項目の重要度や優先度を踏まえ、並び替えることもポイントだ。

▼精査した職務情報をもとに「ジョブディスクリプション」を作成
 情報の精査を終えたら、いよいよ「ジョブディスクリプション」を作成する。文章のボリュームは、通常A4サイズ1枚程度が目安。作成後は、より完成度を高めるために、該当部門のマネージャーにチェックを受けることも薦めたい。

「ジョブディスクリプション」の書き方

 実際、「ジョブディスクリプション」には何を記述したら良いのか。必須項目を解説したい。

●企業が求める人材
 まずは、募集する職位名と求める人材の要件だ。職位名には、ポジションや肩書き、職位に期待される役割なども添えたい。また、人材の要件としては、一つは業務を遂行するために不可欠となってくる経験やスキル、資格を記載する。もう一つは、求める人物像だ。「自ら考え行動できる」、「状況に応じて柔軟な対応ができる」、「最後まで責任を持ってやり抜く」など、候補者にどのような資質を求めるのかを記載する。

●具体的な業務内容
 業務内容や職務の責任範囲については、漏れがないよう詳細な記述が求められる。その際のポイントは、重要度・優先度が高い業務、頻度の高い業務から書くこと。また、業務が多岐に渡る場合には、それぞれが勤務時間のなかでどのくらいの割合を占めるのかも記載しておきたい。

●企業・チームの構造
 業務体制や待遇を含む募集要項も欠かせない。業務体制としては「レポートライン」だ。誰が指揮命令を出すのか、誰に進捗を報告すれば良いかを記載する。また、募集要項には給与の目安、主な福利厚生、職位に対する評価や査定基準、勤務地、勤務時間、転勤の可能性などを明記しておく必要がある。

「ジョブディスクリプション」の作成ポイント

「ジョブディスクリプション」を作成するにあたって、留意しておきたいポイントを整理してみたので紹介したい。

●あらゆる意見を取り入れる
 まずは、できるだけ多くの従業員にヒアリングし、意見を取り入れることだ。該当する職務の従事者は当然、人事担当者や部門・部署の管理職やマネージャー、場合によっては経営者や役員なども対象として含めることも考えたい。

●業務内容を網羅する
「ジョブディスクリプション」を記述することで、各職務の担当者は本来の業務に専念しやすくなる一方、担当業務以外には一切目を向けなくことも想定される。その結果、担当者間で業務の隙間が生じてしまったり、関係がぎくしゃくして仕事が上手く回らなくなったり、組織の生産性が低下することもありえる。そうした事態にならないようにするためにも、組織全体を見渡し、業務内容に漏れがないかを再確認した上で「ジョブディスクリプション」を作成することが重要になってくる。

●定期的に見直す
「ジョブディスクリプション」は一度作成したら、終わりではない。経営環境や社会・経済の動向によって、職務の範囲や内容、必要となる経験やスキルは当然ながら変わってくる。生産性を低下させないためにも、定期的に見直しをかけ、アップデートしていく必要がある。

 職務遂行に最適な人材の採用、公平な人事評価、組織の生産性の向上などを実現できるという点に着目し、日本でも導入する企業が多くなってきている「ジョブディスクリプション」。ただ、実際に書き上げてみようとすると容易ではない。各職務の実態に合致していないことが生じやすいからだ。導入のメリットと作成のポイントを改めてチェックし、組織の生産性向上につながる「ジョブディスクリプション」を作り上げてもらいたい。
 

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HRプロ編集部

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