(黒木 亮:作家)
米国のトランプ大統領が崖っぷちに追い込まれているが、英国のジョンソン首相も、就任1年3カ月にして正念場を迎えている。
イギリス国債、あと一歩でシングルA陥落の瀬戸際
去る10月16日、ムーディーズが英国の長期ソブリン格付けをAa2からAa3に引き下げた。格下げの理由は、経済・財政力の弱体化、EU離脱、EUとの通商協定の合意が得られていないことなどである。Aa3は、ダブルA格の一番下で、あと1ノッチ落ちれば日本や中国と同じA1になり、まさに国家としての格落ちである。
英国経済は、先進諸国の中でも新型コロナ禍による影響が顕著だ。9月に発表されたOECDの予測では、今年の実質GDP成長率はマイナス10.1%に落ち込むと見られている(日本はマイナス5.8%、米国は同3.8%、ユーロ圏は同7.9%、中国はプラス1.8%)。英国はコロナ感染者数が欧州では最も大きかった国の一つである上、消費支出に依存する経済構造のため、ロックダウンによる打撃が他の欧州諸国に比べ大きかった。
効果があったロックダウン
英国では3月23日からロックダウンが始まり、外出できるのは近所への買い物や軽い運動など1日1回程度で、それが6月中旬まで続いた。この間、チャールズ皇太子やジョンソン首相までコロナに感染し、4月から5月上旬にかけてのピーク時は、毎日、新規感染者が5000人、死者が1000人強で、病院や老人介護施設は恐慌状態に陥った。
その後、厳しいロックダウンの効果が出て、日々の感染者数は500~600人、死者数は10人前後まで減った。7月4日から、レストラン、映画館、理髪店なども再開した。英国政府は月曜から水曜の外食代の半分(1人上限10ポンド)を補助する「Eat Out to Help Out」キャンペーンも行って、経済活動の回復を後押しした。ロンドンの繁華街のピカデリーサーカスの人出は、7月はコロナ禍以前の2~3割だったが、8月には8割くらいまで回復した。