基地防空用地対空誘導弾(基地防空用SAM)(資料写真、出所:航空自衛隊

(数多 久遠:小説家・軍事評論家)

 日本の防衛には中長期計画がないなどと言う人もいますが、決してそんなことはありません。これで十分とは言い切れないものの、5年おきに更新される防衛計画の大綱(いわゆる「大綱」)と中期防衛力整備計画(いわゆる「中期防」)によって、中期的な方針が明示されています。

 この大綱と中期防に基づいて、各年度ごとに財務省と来年度の予算を折衝します。そのために示されるのが概算要求です。

 各省の概算要求は、例年8月末に出されるのですが、今年はコロナ対応のため、9月末になりました。防衛省も資料を公表し、やっと来年度の防衛がどうなるのか見えて来ました。そこで、今回は防衛省が公表した資料、令和3(2021)年度『概算要求の概要』をレビューしてみたいと思います。

 現在の大綱および中期防は、平成31年度(令和元年)から令和5年度までを対象にしています。そして、今回発表された概算要求は、令和3年のものです。ちょうど、大綱および中期防の中間にあたります。令和3年度予算に向けた防衛省の概算要求は5兆4898億円となり「過去最大」と報じられていますが、よほどの事情がない限り、前年を踏襲したものになっているはずです。

 概算要求の直前に、安倍前首相の突然の辞任により防衛大臣が変わっています。大臣が替わると、変化が生じることも多いのですが、今回はあまりに直前でしたので、概算要求は河野前防衛大臣の意向によってまとめられています。その意味でも、前年と変わっていることはないと思われます。

 では、実際にどうなのかチェックしてみましょう。

危機的な採用状況

『概算要求の概要』の冒頭には、1ページを使い、“考え方”が示されています。このページを読む人は皆無ではないかと思いますが、自衛隊に限らず、お役所の文書では、こうした部分が非常に重要です。