仮想通貨=特定の国に属さない通貨

 ところで、なぜ仮想通貨という、日本円や米ドルのような本物のお金と異なる通貨が生み出されたのでしょうか? 日本で買い物をするなら日本円がいちばん便利なのに、わざわざビットコインなどの仮想通貨を持つ意味は、いったいどこにあるのでしょうか?

 たとえば、こんな事態が起きたらどうでしょうか。日本の財政が破たんして、日本円の価値が暴落してしまったら……。国内は大パニックになって、銀行では預金の取り付け騒ぎが起きるかもしれません。あるいは、政府が「預金封鎖」という政策を採り、銀行で預金をおろせなくすることもありえます。たとえ米ドルやユーロなどの外貨預金を持っていたとしても、預金封鎖が起きてしまうと、外貨預金すら役に立たなくなることもありえます。

 今の日本で預金封鎖のような非常事態が起きることは考えにくいですが、2013年にはヨーロッパの小国キプロスで金融危機が発生して預金封鎖が行われ、個人の預金が国の税金として徴収された例もあります。今後、リーマン・ショックのような金融危機が起きたときに、日本経済が無事でいられる保証はありません。日本円は日本政府が管理しているので、政府の判断ひとつで、円の価値が危うくなることもありえるのです。

キプロス古代の遺跡が残る地中海の島国・キプロスの金融危機は、ビットコインの名が広く知られるきっかけにもなった

 そこで、もし「特定の国に属さない通貨」があれば、万が一自分の国に良くないことが起きても、自分の資産を守れるのではないか、このように考える人が出てきました。そして2009年、「ブロックチェーン」などの最新テクノロジーを背景に、世界初の仮想通貨ビットコインが誕生、取引が始まったというわけです。実際に、キプロス危機の際にはビットコインが買われ、価格は急激に上昇しました。

 人類の歴史を振り返ると、最初の通貨は紀元前に生まれ、時代が下るにつれて貝や石から金属、紙幣へと姿形を変えていきました。紙幣の時代が長く続いたあと、21世紀に入って電子マネーが普及しました。ビットコインに代表される仮想通貨は、そのまた次の時代のお金といえるのかもしれません。

文明とともに進化する通貨出所:FXcoin

 次回は、世界経済における現時点での仮想通貨の位置づけや、仮想通貨をめぐる法制度について詳しく見ていきたいと思います。

大西さんのひとこと
 新型コロナウイルスの影響もあり、金(ゴールド)の価格が上がりました。裏を返せば「日本円やドルの価値が下がった」と見ることができます。この間、ビットコインなどの仮想通貨も値上がりしました。
 仮想通貨も金と同じように、「自分の資産を守る」という目的で買う、つまり「資産運用のための仮想通貨」という考え方も成り立つのではないでしょうか。
次回以降で、「本当に仮想通貨は信頼できるのか?」といった疑問にもお答えしていきます。