11月の米大統領選の報道を分析している中で、「民主党ジョー・バイデン候補が映画キャプテン・アメリカの年老いた姿に似ている」という小さなブログを見つけた。そこから分析の手が止まり、ふらふらと映画「アイアンマン」を改めて観て驚いた。トランプ政権による高関税措置のうち最新の対象品目が次々と出てくるなど、随所に通商の注目アイテムが目白押しなのだ。
「アイアンマン」の主人公トニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr)が、アフガニスタンで襲撃され命からがら帰国した後、出迎えた秘書(グウィネス・パルトロウ)に真っ先に要求したのはチーズバーガーだった。
プライベートジェットやスーパーカーを多く持つセレブ、トニー・スタークの食べるチーズバーガーであれば、欧州産のフレッシュチーズが使われているだろう。トランプ関税政策では、2019年10月から欧州産チーズに25%の追加関税をかけるようになった。欧州航空大手エアバスに補助金を供与する国に対する報復関税のひとつだ。
劇中ではその25分後、トニー・スタークは自社が主催するチャリティーイベントで、バーテンダーに「スコッチをくれ」と注文している。もしこれが英国産のシングルモルトウイスキーであれば、同じくエアバス補助金の報復で25%の追加関税がかかる。米蒸留酒協会によると、この追加関税発動後の8カ月(2019年10月~2020年5月)で、米国のスコッチウイスキー輸入額は前年同期比33%も減少した。それほど大きなインパクトを与えている関税措置だ。
続いてその3分後、秘書がトニー・スタークに頼んだウォッカ・マティーニには「オリーブが少なくとも3つ」付いている。これがもし英国・ドイツ・スペイン・フランスのいずれかの産品であれば、これにも新たに25%の追加関税がかかる。トニー・スタークは狙ったかのように、トランプ政権による報復関税品目を選んでいる。
ちなみに、「アイアンマン」のアーマーに使われるアルミニウムは、おそらく今ならカナダ産だ。
現在、米国が輸入している未加工アルミニウムの9割はカナダからのもの。通商拡大法232条に基づきカナダからの輸入に課したアルミ高関税を2019年5月に解除したことで、カナダからのアルミ輸入は1年間に前年同期比65%も増加。トランプ政権はこれに対し、先月8月16日から10%の追加関税を課した。
今やヒーロー映画ですら「関税まみれ」だ。