発酵食品では、主役、脇役を問わず乳酸菌が活躍

 どちらにしても微生物の力を使って造る発酵食品はたいへんな手間と時間がかかります。それは目的に合った微生物だけがよく働いて、それ以外の目的外の雑菌が増殖しないように環境を整える必要があるためです。腐敗菌が増殖してしまうと本当に腐って食べられなくなってしまいます。

 結果として発酵食品では、主役、脇役を問わず、乳酸菌が働く場合がたいへん多くなります。食品中に乳酸菌が生育すると、生成された乳酸のためにpHが低下して酸性が強くなるためです。pH4程度の酸性に傾いた条件下では、食中毒を引き起こす病原菌はほとんど生育できなくなります。結果として食品の保存性がよくなるためです。

 漬け物は野菜を食塩に漬けて保存性を良くした加工食品です。食塩を添加することで野菜に含まれる水分が外に染み出し、雑菌の繁殖が抑えられます。それとともに有用な乳酸菌と酵母が生育するようになるのです。

 漬け物の発酵の初期段階では「バチルス」などの好気性細菌が生育します。そのうちに乳酸球菌の「ロイコノストック・メセンテロイデス」、乳酸桿菌(かんきん)の「ラクトバチルス・ブレビス」が優勢となり、さらに耐塩性酵母の「ジゴサッカロミセス・ルクシ」などが生育して香味を与えます。

主な乳酸菌

名称 特徴
ラクトバチルス・ブルガリカス ヨーグルト、S・サーモフィラスと共生
ストレプトコッカス・サーモフィラス ヨーグルト、L・ブルガリカスと共生
ラクトバチルス・ケフィール ケフィール、地中海ヨーグルト
ラクトバチルス・カゼイ ヤクルト、病原菌の増殖を抑える
ビフィドバクテリウム・ロンガム ビフィズス菌、病原菌の増殖を抑える
ラクトバチルス・ブレビス 漬け物に多い
テトラジェノコッカス・ハロフィラス しょうゆ、味噌、耐塩性に優れる

 日本には味噌漬け、酒粕漬け、醤油漬け、たくあん漬け、梅干しなど、全国各地でさまざまな漬け物が生産されています。白米には塩味の効いた漬け物がよく合う。カレーライスには福神漬けが欠かせません。カブを薄切りにして昆布や唐辛子と酢漬けにした京都の「千枚漬け」、浅漬けがフレッシュな信越地方の「野沢菜漬け」など、思い浮かべただけでもお腹が空いてきます。

 韓国の「キムチ」は白菜を食塩で漬け、唐辛子、ネギ、魚介類の塩辛などを添加して常温で発酵させたものです。ドイツの「ザワークラウト」は細かく刻んだキャベツを発酵させたもので、欧米各地で作られる「ピクルス」は塩漬けにしたキュウリを漬け液に漬けて乳酸発酵させたものです。

 家庭でも手軽に作れる漬け物はお手入れが重要です。空気に長く触れると風味が悪化します。また乳酸菌が生育し過ぎると酸味が強すぎて香味が低下し、いわゆる「漬かり過ぎ」の状態になります。そうなると発酵を適度に止めることも重要です。

 乳酸菌は腸内環境を整え、ヒトの身体に備わっている免疫力を高めるとされています。塩分の摂り過ぎに気をつけながら、漬け物を食べる習慣をつけるようにするとよいかもしれません。漬け物メーカーのピックルスコーポレーション(2925)、アミノ酸技術の味の素(2802)、有機合成薬品工業(4531)、乳酸菌を混ぜ込んだサラダ麺を開発しているマルタイ(2919)に注目しています。

ピックルスコーポレーション(2925)月足、2009年~
ピックルスコーポレーション