地球の誕生は約46憶年前。最古の細胞の化石は約35億年前とされています。光合成を行って炭水化物を生産する細菌が出現したのは約25億年前、それから大気中に酸素が徐々に増えていって、多細胞生物の出現は約15億年前と考えられています。

 5億4000万年前に突如として地球上の生物の種類が増加して古生代が始まり、驚くほど多様な進化を遂げながら現在に至っています。ヒトの祖先の誕生は500万年前に過ぎません。それ以来、人類の歴史を通じて発酵に関わる技術を受け継いできました。

 発酵とは、学術的には「微生物が嫌気的(空気を嫌がる)に有機物を分解してエネルギーを得ること」と定義されます。しかし人類の歴史上、発酵に関わる技術はもっと幅広い場面で利用されており、学術的な定義の中には収まりません。

 そこで一般的なイメージに基づいて言い変えると、発酵とは「微生物が有機物を分解して新たな物質を生成する現象のうち、人々にとって有益な場合は発酵といい、有害な場合は腐敗という」ということになります。

アミノ酸こそが発酵食品の味わいを生む

 発酵食品の中には「なれ鮨」や「くさや」のように強烈な臭いを伴うものもあります。好きな人にとってはたいへんな美味・珍味ですが、嫌いな人にとっては腐っているとしか思えないようなものもあります。

 発酵食品にはパン、チーズ、ヨーグルトをはじめ、納豆、漬け物、ワイン、日本酒、ビールなどいずれも独特の風味と味わいがあります。その秘密は微生物の作用によってタンパク質が分解される点にあります。

 アミノ酸が連なって構成されるタンパク質は、一般にはほとんど味がありません。卵の白身や鶏のささ身は非常に淡白な味しかしないことを思い浮かべればわかると思います。大豆には豊富なタンパク質が含まれていますが、大豆のタンパク質を凝固させた豆腐にもほとんど味がありません。

 一方でアミノ酸にはさまざまな味があります。「味の素」はうま味調味料の代表格で、その成分はアミノ酸の一種であるグルタミン酸です。タンパク質が分解されてアミノ酸が生じるとうま味が出てくるのです。

 豚や牛などの家畜の肉も、屠殺直後の肉はうま味が乏しく、冷蔵庫で1週間くらい熟成させると柔らかくなってうま味が出てきます。これも筋肉に含まれている酵素がタンパク質を分解してアミノ酸が生じるためです。

 発酵食品を造る過程では、微生物が産出するプロテアーゼが食品中のタンパク質を適度に分解してアミノ酸が生じます。このアミノ酸こそが発酵食品の味わいを生んでいるのです。