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2020年5月6日、ロックダウンの規制緩和について州知事とのオンライン会議を行ったドイツのメルケル首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

(文:熊谷徹)

「我々ドイツ人は、新型コロナウイルスとの戦いの最初の段階を乗り切ることに成功した。感染者数の伸びを以前に比べて抑え、重症者数が医療機関の限界を超える事態を避けることができた。このため、我々は少し勇気を出して、前に進むことができる」

 アンゲラ・メルケル独首相は5月6日午後、16の州政府の首相たちとのビデオ会議の後、こう言って主要先進国の中で最初のロックダウンの大幅な緩和策を打ち出した。

接触・外出制限令、中身は大幅に緩和

 現在は面積が800平方メートル以下の店と自動車・自転車・書籍販売店だけが営業を許されているが、今後は客、店員のマスク着用義務や最低1.5メートルの距離を保つという条件の下で、全ての商店の営業が許される。ニーダーザクセン州やバイエルン州など4つの州では、今月末までにレストランやホテルの営業が再開される。ただし、これらもマスク着用や最低限の距離に関する義務の順守が条件だ。

 一部の州が他州よりも早くロックダウンを緩和できる理由は、ドイツが連邦制を取っているからだ。連邦政府は国全体の防疫政策の方向性を決めるが、感染症防止法の執行権限は州政府の首相が握っている。彼らの権限は、日本の県知事よりもはるかに大きい。ドイツ人たちは、ナチスの時代に権力を中央政府に集中させて失敗した経験を持っているので、地方分権を非常に重視している。

 3月23日以来続いている接触・外出制限令は6月5日まで継続されるが、中身は大幅に緩和される。これまでは家族を除き2人以上が集ったり、一緒に外出したりすることは禁じられていた。だが今後は、2世帯の市民が一緒に食事をしたり、出かけたりすることが許される。つまり2組の夫婦が一緒に散歩することが、7週間ぶりに可能になった。

 現在ドイツでは全ての学校や託児所が閉鎖されているが、夏休みまでに子どもたちが、少なくとも1度は学校などに戻れるようになる。さらに高齢者介護施設に住んでいる親類を訪問することも、許される。

 児童公園、博物館、動物園、理髪店、教会のミサなどは、首相の発表に先立つ5月4日から再開された。屋外での集会も、参加者が50人までならば開催できる。

 参加者が身体を接触させないスポーツも許される他、プロ・サッカー(ブンデスリーガ)も5月後半から観客なしで試合を再開できる。

 全体として見ると、わずか1カ月前には考えられなかったほど、踏み込んだ緩和策である。

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