「労働施策総合推進法」の改正を受け、大企業では2020年6月1日から、中小企業では2022年4月1日からパワーハラスメント(以下パワハラ)防止のため、パワハラ防止措置等の実施が義務づけられます。具体的には、「ハラスメント防止の規程を就業規則に盛り込み、従業員への周知徹底を行うこと」や「ハラスメントの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備すること」、「被害を受けた労働者へのケアや再発防止について適切な措置をとること」などが求められます。そこで今回は、パワーハラスメントを中心に、なぜ今ハラスメント対策に取り組む必要があるのかをお伝えします。

「パワーハラスメント」の定義とは

 いわゆる「パワハラ防止法(「労働施策総合推進法」を根拠とする防止措置)」では、パワハラの定義を「優越的な関係を背景とした、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、就業環境を害すること」としています。

 ハラスメント研修を実施する中で感じることは、本当に学ぶべき人が研修に来ないケースが多いということです。研修を一生懸命受講している人は、ハラスメントが良くないことだと気づいている人です。しかし一方の加害者は、それが「悪いこと」だと気づいていません。研修を実施しても現状が変わらないのは「無自覚パワハラ」が多いからです。自分が悪いことをしているという意識のないままに働いている人、むしろ自分は仕事に対して熱意をもって取り組み、会社になくてはならない存在だと思い込んでいる人が、パワハラをしてしまう傾向が強いといえます。

 近年、パワハラの相談件数は右肩上がりで増えており、厚生労働省の「平成30年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、2018年度の相談件数は8万2,000件以上と、10年前と比べ倍以上に推移しています。また、同じく厚労省おこなった「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年間でパワハラを受けたことがある人は32.5%と、3人に1人がその被害を受けたことがあるという状況です。

 最近では「パワハラ」という言葉だけが一人歩きしてしまい、実際は異なるのに、パワハラだと訴えるケースも増加しています。では、パワハラとはどのような行為を指すのでしょうか。具体的にあげてみたいと思います。

「パワーハラスメントの6類型」として具体的な行為が下記のように分類されています。

(1)身体的な攻撃(暴行・傷害)
殴る、蹴るといった社員の身体に直接危害を加える行為だけでなく、書類を投げつけて威嚇する行為も含みます。

(2)精神的な攻撃(脅迫・侮辱・ひどい暴言)
人格を否定するような言葉や、同僚の前で、大声で繰り返し執拗に叱責する行為などが該当します。

(3)人間関係の切り離し(仲間外れにする・無視)
ひとりだけ別室に席を移させたり、歓送迎会等の部署行事に出席させなかったりといった行為が該当します。

(4)過大な要求(明らかに遂行不可能な業務の強制)
到底終わらないような時間で仕事の完了を要求したり、能力や経験を超える業務を押しつけたりするケースが該当します。

(5)過小な要求(能力や経験に見合わない仕事を命じる・仕事を与えない)
管理職に新入社員が実施するような仕事を与えたり、事務職なのに倉庫業務だけを命じたり、能力値を過小評価するような行動が該当します。

(6)個の侵害(私的なことに過度に立ち入る)
管理職としての優位性を背景に、私生活や休日の予定を聞き出したり、携帯電話やロッカーをのぞき見したりするなどが該当します。

 この中で一番多いのが(2)の精神的な攻撃です。「バカ・あほ・死ね・給料泥棒・お荷物・目障り」といった人格非難の言葉や、「なんで/どうして」、「理由を言え」などの責め口調、「前にも言った」や「何度も伝えた」などのさかのぼり表現、そして、両親や出身地・出身大学といった本人の力では変えることができない事柄に対する言及は、パワハラにつながる表現です。

 もし、上司が部下指導の際にこういったたぐいの言葉を使っているとしたら、それは「指導」には当たりません。「叱る」ことの目的は、相手の間違っている行動を正しい行動に変えることであり、それが達成されない声かけは無意味です。

 そこで、研修では相手の感情に配慮して論理的に叱る方法をお伝えしています。しかし、それだけでは不十分なのです。なぜパワハラが増えているのか、社内でパワハラが起こるとどうなるのかを従業員に明確に理解させることなくして、パワハラ対策はできません。