環境や相手を問わないコミュニケーション力を身につけよう
1.主語を言わず内容を話し出すので、何の件を言っているのかがわかりづらい
これは日本語の特徴にも原因があります。日本語というのは「主語」がなくても成立するなど、いくつか独特の特徴がある言語です。そのため、5W1Hのような表現ではなく、「できた?」、「どう?」、「送ってくれた?」等のように「単語」でも表現が成立してしまう場合があります。この場合、日頃から同じ空間にいれば、時系列や前後の出来事で、何について「できた?」と聞かれているのかはだいたい推測できるのですが、リモートの場合、そのバックボーンがそぎ落とされるので、言われたほうは瞬時に何のことなのかが判別できません。
AさんがBさんに「できた?」と突然リモートで尋ねても、Bさんは、「自分が抱えている3つの作業全部できたのかと聞かれたのか、それともその中の一つの作業について聞かれたのか、それとも仕事のことではなくて、一昨日Aさんから言われた今期の業務目標の提出期限が今日だったからそのことなのか、それとも……」と、手も頭も止まってしまうわけです。Aさんのような言い方をされると、言われたほうは常にAさんに対して「どの件についてですか」という会話が、1回余計に必要になります。それが日常的だとBさんにとっては非常にストレスになっていきます。
リモート環境の場合は、会話やメッセージに主語や固有名詞を普段よりもかなり意識して入れると良いです。「あれできた?」、「資料できた?」ではなく、「A案件の資料できた?」と伝えましょう。「あうんの呼吸」は日本人の場合、対面ではグッドコミュニケーションですが、リモートではやらないほうがリスクは抑えられます。たとえば一人を除いて全員A案件の納期の話をしていたつもりが、一人だけB案件の納期の話だと勘違いしていた、ということもあるからです。リモートでは誰かひとりが勘違いや誤解をしていても、それを拾いにくい、気づきにくい環境にありますから、その点を特に注意してください。
2.数分~数十分おきに「あ、さっきの件だけど」「それから」と、「五月雨式」に連絡してくる
これは職種によるところも大きいと思うのですが、「集中して作業をしなければいけない職種」の人にとっては、とても負担になります。私の場合、数字を集計したり、文章を書いたり、ある程度一定時間集中して作業をしなければいけないときがあるのですが、スマートフォンにメッセージの着信があると、緊急の場合があるといけないので、やはり一旦作業を止めてチェックします。
それが本当に緊急案件や、随時状況が変わる案件だったらいいのですが、そうではなくて、単にその人の性格上、五月雨式に連絡を入れてくる場合があります。おそらく相手は逆にそうされても平気なのでしょうし、密にコミュニケ-ションを取った方が仕事をしやすい職種の方なのだと思うのですが、全員が全員そうではありません。これが仮に、職場で集中して作業をしているのを目視できたら、今話しかけてはいけない、などと気づくでしょうが、リモートの場合、それが難しいのです。業務連絡など、まとめられる用件はなるべく一度にまとめてやりとりしたほうが相手の作業効率を阻害しないグッドコミュニケーションだと私は思います。
3.相手の状況を想像せず、24時間365日、「自分が思い立った瞬間」に連絡してくる
部下から上司への連絡に関しては、それに対して返事をいつするかどうかの権限が上司にありますので、受け取った上司はそれほど心理的なストレスにはなりにくいのですが、上司から部下への連絡に関しては、連絡のタイミングによっては部下のストレスになる場合があります。そのため、リモートワーク用の運用ルールはやはり作ったほうが良いと思います。
たとえば「土日祝日の終日と平日夜22時~朝8時までは上司から部下へは連絡を入れない」など、「発信する側」、「上司側」のルールを中心に作ると良いです。「自分が忘れてしまうといけないから送っているだけでさ、別に週末開かなくてもいいから」と上司に言われても、真面目な部下ほど、やはり送られてきたものは気になって開いてしまいます。そして中身を見てしまうと、返事をしなければいけないのではないか、と気になってしまい、気持ちを休めるべき時間に休めなくなります。そして、それはメンタルのバランスを崩す要因になります。
仮に上司が部下に始終連絡をして部下が体調不良になってしまった場合、結局その仕事は上司に戻ってきますので誰も得することがありません。リモートのコミュニケーションは、基本的には職位が上位の人が下位の人に気を配るべきではないかと私は思います。
まとめると以下のようになりますが、これからは「どのような環境でも」、「どのような相手とでも」良いコミュニケーションをとりながら仕事を進められる人がますます求められていくと思います。今はその練習の機会ととらえて、リモートワークのコミュニケーションスキルを高めていってはいかがでしょうか。
1.リモートでの会話、メッセージのやりとりは主語、固有名詞を意識してつける
2.用件は五月雨式に伝えず、なるべく一度にまとめた上で伝える
3.上司から部下への連絡時間は、上司側が意識して配慮する
著者プロフィール 流創株式会社 代表取締役 経営コンサルタント/作家 前田 康二郎 数社の民間企業で経理総務、IPO業務、中国での駐在業務などを経て独立。現在は「フリーランスの経理部長」としてコンサルタント活動を行うほか、企業の顧問、社外役員、日本語教師としての活動、ビジネス書やコラムの執筆なども行っている。著書は『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』のほか、『スーパー経理部長が実践する50の習慣』、『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』、『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』『経営を強くする戦略経理(共著)』、『スピード経理で会社が儲かる』、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』、『自分らしくはたらく手帳(共著)』など多数。節約アプリ『節約ウオッチ』(iOS版)も運営している。
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