「男子生徒は丸坊主」、「スカートの長さは膝下◯cm」、「ポニーテール禁止」、「カーディガンの色は黒か紺」、「匂い付き消しゴム禁止」etc…。今、校則を見直す動きが広がりつつあるらしい。笑えるような校則がある一方、中には下着の色を指定しているといったいわゆる「ブラック校則」と呼ばれるものもあり問題視されているようだ。

大人の働く企業の現場でも同様の服装・身だしなみに関する規則が存在する

 大人の働く企業の現場での服装・身だしなみに関する規則は、例えば、

「男性の髪形は七三分け」
「髪の毛の色は黒(白髪は染める)」
「靴下は無地のこと」
「派手な色の靴禁止」
「ジャージ禁止」etc…

 これらは実際に見聞きしたことのある社内規定のほんの一部である。そして、こうした服装・身だしなみ(以下、「身だしなみ等」)に関する規則に起因して、労務トラブルに発展してしまうことも珍しくない。そうしたトラブルを可能な限り避けるために必要な実務上のポイントをあげてみる。

(1)就業規則等に明示する
 まず、大前提として就業規則に「身だしなみ等について指導することがある」、「場合によっては懲戒処分の対象になる」といったことを明示しておきたい。これにより会社側からの指導の根拠とすることができるほか、従業員の心の片隅に「守らなければいけない」という意識付けが期待できる。

(2)理由を明示する
「サンダル禁止」というルールひとつとっても一筋縄ではいかない。「サンダルではありません、ミュールです」とか、「誰にも迷惑は掛けていません」などといった反論が想定される。指導の効果を高めるには明確な理由を示せるかが肝である。

 有効な方法としては「お客様からのご意見」の活用がある。毎日の事業活動の中で寄せられた苦情等をしっかりと収集し、決して指導する側の個人的な価値観によるものになってしまうことのないようにしたい。

(3)こまめに指導を続ける
 人間、同じことを言い続けるのはつらいものである。しかし、放っておくとますます指導がしづらくなるし、容認したものと誤解されかねないので、軽めの注意でもいいからこまめに指導をしておきたい。だたし、あまり執拗に繰り返すとパワハラ問題に発展するおそれもある。「毎週○曜日は身だしなみ等チェックの日」とするといったように、適度に間をあけて、かつ継続するという方法も一考である。

(4)率先垂範する
 意外とできていないことが多いのがこれである。派手な靴を注意した上司自らが、数日後とても色鮮やかな靴を履いてきた、というようなことが起こるのだ。当然、不満や不信が生まれる。実際に、このような馬鹿ばかしいことが原因で現場は揉めるものである。指導する立場の人は、見られていることを意識して率先垂範を心掛けておこう。

(5)記録を取る
 これは将来的に懲戒等を見据えている場合には必須となる。企業の懲戒についての詳細はここでは割愛するが、権利の濫用を避け、相手に真摯な反省を促すためには、これまでの指導の記録は不可欠なものだ。「5W1H」を明らかにした正しい記録を残しておきたい。

 以上5つほどあげてみたものの、正直なところ、決定力には欠けている。身も蓋もないが、基本的人権の前にはできることが限定されるといえよう。「服装の乱れは心の乱れ」とは正に金言であるが、何をもって「乱れ」とするのか、その判断基準は時代とともに変化するものかもしれない。

 2019年11月に公表された「社内ルールにおける男女差に関する調査2019(日本労働組合連合会)」によると、職場の身だしなみ等のルールについて「最低限で良い」または「本人に任せるべき」と答えた方の割合が全体の7割以上を占めた。また、新卒の就職活動でも服装自由の企業が増えてきており、身だしなみ等について寛容なのが近年の風潮といえる。

 人手不足対策、働き方改革、AI推進等、ただでさえ経営課題が山積みの今、身だしなみ等の指導に起因する労務トラブルのような「場外乱闘」はしている暇がない、というのが本音ではないだろうか。それによる生産性の低下の不利益は計り知れない。自社の身だしなみ等のルールは本当に必要なものか、時代遅れなものになっていないか、一度見直してみるのもよいのかもしれない。


出岡健太郎
出岡社会保険労務士事務所

著者プロフィール

HRプロ編集部

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