第二の連鎖「ストップロス」

 投資ファンドや金融機関の自己投資などにおいては、ファンドマネージャーに年間の許容損失金額が設定されているケースがあります。

 複数資産に投資をしているファンドにおいても特定銘柄や特定資産の損失により、ファンド全体の損失が事前に定めた範囲を超えるとファンドの保有資産全てを現金化しなければいけないルールとなっていることもあります。

 このような現金化の局面においては、利益が出ている、出ていない、割高割安を問わず、売却の対象となるため、資産横断的な下落が起きることになります。

第三の連鎖「ボラティリティコントロールによる売却」

 最近、「ボラティリティコントロール」とか「リスクパリティ」と称するポートフォリオ戦略が多くみられるようになりました。
 これは複数資産に投資するポートフォリオ運用において、資産の組み合わせを収益の振れ幅(ボラティリティ)を基準にして決定するというタイプのものです。

 ポートフォリオ全体でのボラティリティになんらかの制約を入れる戦略であるため、組入資産の価格が大きく変動しボラティリティが上昇するとポートフォリオで変動性の高くなった資産を売却しより変動性の低い資産を購入する、といった配分変更が起きます。
 また金融資産全体のボラティリティが上がれば、資産全体を満遍なく売却し現金比率を増やす場合もあります。

 ボラティリティコントロールは本来ファンドの損失を抑制するために考案されたリスク管理手法なのですが、投資家が一斉に同じ方向でリスク回避をすることによって、最近ではむしろ損失を拡大させる要因になっているという声も聞こえます。

第四の連鎖「デリバティブポジションの担保割れ」

 わかりやすくいうなら「追証」です。
 先物やスワップなどのデリバティブ取引においては、証拠金を積むことで、実際にある現金以上の持ち高を持つことが可能となります。
 その代わりにデリバティブポジションでの評価損が膨らめば追加の証拠金を入れなければなりません。

 また、証拠金を株式など金融商品の現物で差し入れている場合には、担保としている金融資産の資産価値が下落すれば追加の担保か現金を入れる必要があります。
 証拠金を追加するための現金が十分にない場合には保有資産を売却して現金を調達するか、デリバティブポジションを清算しなければならないのです。

 さらに、デリバティブポジションの証拠金の計算根拠は市場の変動幅によって変化します。
 市場のボラティリティが拡大するだけで必要証拠金は上昇しますし、機関投資家同士の直接取引においては、相手の信用力によっても証拠金率は変化します。
 市場の混乱が続くことで証拠金を調達するための資産売却が起きやすくなることには注意が必要です。

第五の連鎖「ファンドの清算」

 上記のような損失の連鎖が重なることで、ヘッジファンドなどの投資収益が大きく毀損を始めると、ファンドには投資家からの解約要請が集中するようになります。
 投資家からの解約に応じるためにファンドは保有資産を一律に売却せざるを得ず、解約申し込みが多くなれば最終的にはファンドを清算しなければならなくなります。

 さらに大きなファンドの清算が起きれば市場に短期的な大きな売り注文が発生することになり、その需給が他のファンドの収益を毀損させる悪循環が発生するリスクが出てきます。
 ここまでくると、市場はファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)やバリエーション(資産の割安度)などは完全に関係のない「換金相場」となり、市場水準は「オーバーシュート」しながら下落することになります。

 損失の連鎖はある程度時間差をもって進行していきます。
 3月16日現在の金融市場が、上記の連鎖のどこまでを織り込んでいるのかについて、明確な回答はありませんが、初期の損失の連鎖からやや中盤までをスピードを伴って織り込んできたように見えます。

 ここから先の反発局面においては早計に安心することなく、その裏に隠れている損失の連鎖が起きていないかどうかを慎重に確認しながら、ゆっくりと買い場を探していくことが肝要だと考えています。

第21回 パンデミックと経済