まとまった現金などをいかに残せるか?

 読者の皆さまの中には、「ずいぶんと団信にこだわる筆者だな」と思われる方もいらっしゃることでしょう。
 しかし「団信があるから、住宅ローンを残す」ことが、筆者がお伝えしたい結論ではありません。

 KさんとTさんのお二人のケースから筆者が得た結論は、

 「住宅ローンを残してでも、まとまった現金もしくは現金類似の資産を残しておいた方が良い」

 です。
 そして、住宅ローンが残っても問題を生じさせないために、団信を活かすということです。

 定年退職の時に住宅ローンの繰り上げ完済を行ってもなお、まとまったお金が残っていれば良いでしょう。しかし、叶うことなら、退職後にできる限り多くの現金、あるいは株式や投資信託のような、すぐに現金化できる資産を残しておくことを勧めたいです。

 もちろん、定年退職の後、住宅ローンの月々の支払いが家計の負担になるのであれば話は別です。その場合は、退職金などのまとまった現金を住宅ローンの繰り上げ完済に充てた方が良いのかも知れません。
 が、それでもやっぱり叶うことなら、住宅ローンの繰り上げ返済(=完済ではなく、一部の繰り上げ返済)に留め、まとまった現金などを可能な限り残しておいた方が良いと、筆者は思っています。

 なお、住宅ローンの繰り上げ完済ではなく、住宅ローンの繰り上げ返済をご選択なさる場合、その繰り上げ返済は「返済期間短縮型」ではなく、「返済額軽減型」の方が良いと、筆者は考えます。
 なぜでしょうか?
 先ほどのKさんとTさんのケースの比較が参考になると思います。
 そうです。「団信を活かす」という点と、Kさんの「家計のキャッシュフロー」という点です。

住宅ローン返済住宅ローンの返済を急ぐあまり、現金などが手元に残らなくなるとあとで困るかもしれません

退職後にまとまったお金があった方が良い理由

 定年退職時のお金の使い方について、「団信を活かすという発想のもと、住宅ローンをあえて残す」や、「住宅ローンの(一部の)繰り上げ返済を行うのなら、返済額軽減型を選ぶ」など、一般のファイナンシャルプランナー(FP)の常識と大きく異なるであろう発想に驚かれた読者も多いとは思います。

 「定年退職後は、スーツなどの衣装代や交際費が減り、(現役時代に比べ)生活費が減るのでは?」
 「子育てが終わっていれば、教育費はかからない」
 など、さまざまなお話があろうかと思います。

 筆者は、まとまった現金などは定年退職後に「必要」というより、「あった方が良い」という考え方です。

 ではなぜ、まとまった現金などが「あった方が良い」のでしょうか?

 ポジティブな例を挙げてみましょう。

ポジティブな例
世界一周クルーズなど、現役時代には思いも及ばなかった、大掛かりな旅行ができる(時間もありますからね)
新しい趣味を始めるために、お金を投じることができる(60歳半ばからスノーボードを始めた、というお話を聞くことも)
交友関係を続けることができる(男性よりも、女性からよくお聞きするお話です。「今日は、これから皆さんと歌舞伎を観に行くのよ」という具合です)

 ポジティブもあれば、ネガティブな例もあり得ますね。

ネガティブな例
ご自身や配偶者の闘病や介護などの費用
☆(もし、いらっしゃれば)独身の兄弟姉妹などの闘病や介護等の支援
ご自宅の修繕費用
☆(身体が弱ってきたことなどにより)ご自宅のリフォーム費用

 ポジティブともネガティブとも言い難いのですが、意外と忘れがちなのが「冠婚葬祭」です。

 「年齢ゆえでしょうね。不祝儀が増えました」
 「1年間に3度の不祝儀があると、100万円近い支出になります
 「不祝儀だけに、さすがに早割というわけにもいかず、若くはないから、格安の夜行バスというわけにもいかず」
 以上は、筆者のお客様のお言葉です。
 ご自身や配偶者の両親と兄弟姉妹はもちろん、職場の上司や同僚、学校時代の先輩や同級生、それに地域や趣味のつながりなども対象となるでしょう。

 「年齢なのか、タイミングなのか、ご祝儀が続きます」
 これも、筆者のお客様のお言葉です。
 ご自身のお子様、甥御様や姪御様や、ご家族ぐるみの付き合いをしている方などが対象だと考えられます。