封鎖された中国・武漢市を歩くボランティアスタッフ(2020年2月9日、写真:新華社/アフロ)

(藤谷 昌敏:日本戦略研究フォーラム政策提言委員、元公安調査庁金沢公安調査事務所長)

 中国政府の発表によれば、新型肺炎の最初の患者は2019年12月8日に38度以上の発熱を訴えて病院にかかり、肺炎の症状が明らかになって、「ウイルス性肺炎」と診断されたとされる。その日から同様の発熱と症状を見せる患者が続々と27人も出現し、それらは武漢市内にある海鮮市場の関係者もしくは接触者であったことが分かっている。

 その時点で「感染は海鮮市場内で起こった」と認識されたにもかかわらず、この海鮮市場が正式に閉鎖されたのはずっと後の12月31日午前のことであった。その日の午後、武漢市衛生健康委員会は、一連のウイルス性肺炎の大量発生について初めて公開通知を発表したのである。武漢市の海鮮市場では、SARSの感染源とされたコウモリやハクビシンなどが食用で取引されており、非衛生的との指摘もあって以前から問題のあった市場であった。

 そして1月11日に至って、武漢市当局は新型コロナウイルスが検出されたことを発表したが、その後も「ヒトからヒトへの感染はない」と繰り返し、武漢市内の病院で治療に当たる医者たちには緘口令を敷いたという。

 また、武漢市当局は当初、「1月3日以降は新たな発症者が出ていない」と説明し、21日には湖北省政府が著名人を招いて春節の祝賀会を開くなど、事態は一見解決したかのようだった。

 しかし、その後の中国メディアによれば、市内の病院は患者が殺到して完全にパンク状態に陥り、発熱や疑似症状を訴える人や不安を訴える人たちすべてを診察することができていない状態だとされる。診察を受けられた患者もその多くが単純に「ウイルス性肺炎」と診断されて自宅待機を余儀なくされており、死亡したとしても新型肺炎による死亡者とは認定されていない。そのため、感染者数、死亡者数は、中国政府の発表よりも数倍から数十倍の規模となっている可能性がある。