中国を訪れた世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長と握手する中国の習近平国家主席(2020年1月28日、写真:新華社/アフロ)

(福島 香織:ジャーナリスト)

 1月末に行く予定であったソロモン諸島の取材がとりやめになった。ミクロネシア連邦、太平洋島嶼国が日本を含む感染関連地域からの渡航制限に踏み切ったからだ。小さな島国が感染症から身を守るための当然の対応とは言え、やはり残念である。ちなみに4月末にはパラオ取材を入れているのだが、パラオはどうなるだろう。

 今さら言っても遅いのだが、日本は自国の感染対策と公共衛生水準の高さを過信したのか、米国が中国からの全面渡航禁止を宣言した1月30日時点でさえ、中国からの渡航者を受け入れており、やはり危機管理が甘かったといわざるをえない。

 コロナウイルスなんてよくある風邪の原因の1つで、インフルエンザの方が危険、という認識かもしれないが、統計上でも致死率2~3%の新型コロナウイルスの致死率はけっして低いとは言えないし、中国の統計自体はあまり信用されていない。たとえば農村部で医療機関にかかれないまま一家ごと感染して冷たくなって発見されるケースなんていうのも、あるかもしれない。農村エイズの感染現場を取材したとき、そんな悲惨な話は掃いて捨てるほどあった。

後出しじゃんけんのように出てくる様々な情報

 この新型コロナウイルスは未知のウイルスで、わからないことが多すぎる。最初は華南海鮮市場が感染源とみられていたが、12月10日までの感染例4人のうち最初の1人を含む3人は市場とは無関係であることが、最初の患者を診た金銀潭医院の医師たちのリポートに記されており、感染源は1つではないようだ。潜伏期間が2週間に及び、症状の出ない人でも感染性をもつことや、結構タフなウイルスでドアノブやエレベーターのボタンの上、大便の中でも数日間生きているので、手指からの経口感染も用心しなければいけないということも最近警告されるようになった。

 症状の重篤化は少なく、高齢者や既往歴が死者の中心だといわれていたのに、香港での初の死者(39歳男性、既往症なし)は抗ウイルス薬で症状が改善されたと思ったら、ウイルスによる心筋梗塞で急死亡。中国「財新」誌も、症状が出ておらず普通に街中にいる青壮年が心不全とみられる症状でバタバタ倒れている状況が各省で報告されていることを報じている。さらに中国衛生当局は、この新型コロナウイルスは多臓器不全を起こすケースや、治癒後に免疫ができないために再感染するケースもあると注意を促している。

 症状はHIVウイルスのように免疫力低下を引き起こしやすく、HIV治療薬の投与に効果があることは、タイの医師や、自ら新型肺炎中央対策チームのメンバーとして武漢に赴き感染してHIV薬で治癒した北京の医師、王広発が公表している。それを裏付けるように、デリーのインド工科大学のチームがコロナウイルスの遺伝子のS蛋白質の中にHIVウイルスと同様のアミノ酸配列が4カ所あるとの査読前の論文をネットに一時上げた(だが、このウイルスが中国によって人為的につくられたものではないかという陰謀論に悪用されかねないということで、論文はすぐに取り下げられた)。