街を歩くはっちゃん・ぶんちゃん

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 路地裏文化祭では、竹瓦温泉の前の路地に浴衣姿のバンドが登場。住民たちは七輪でサンマを焼きながら、ビールのケースをイス代わりにして楽しんだ。昭和初期に活躍した日本初の女性バスガイドや、流しの演歌歌手コンビ「はっちゃん・ぶんちゃん」も再びスポットライトを浴びて登場。往年の名調子が路地裏に響き渡った。

 竹瓦温泉は結局、改築されることなく文化財登録され、現在も市営の公衆浴場として営業。多くの観光客が訪れている。保存に立ち上がった人たちの遊ぶように楽しむ気持ちが内外の人々を惹きつけ、巻き込み、市の計画を変えさせたのである。

メーリングリストが武器に

 別府の住民たちの「楽しい!」「面白い!」という気持ちを集めて、力に変える強力なツールがあった。それは「別府八湯メーリングリスト」だ。活動を担うリーダーたちのほとんどがこのメーリングリストのメンバーである。

 会員数は400人を超え、原則として誰もが実名で書き込みを行う。情報・意見交換は極めて活発に行われ、世話人役のフォローもきめ細かい。オフラインミーティングが随時行われ、アイデアのブラッシュアップ、仲間の募集、情報告知など地域づくりに直結している。

 大分県ではパソコン通信の時代から、地域系のコミュニティーが盛り上がっていた。この蓄積が核となって、Web時代に広がりをみせた。大分は「この指とまれ」の呼びかけに応じる人が多く、フラットで前向きな仲間づくりが得意な地域なのだ。

88湯達成の名人に送られるタオル

 メーリングリスト上で、「楽しくやる」発想はさらに広がった。別府市旅館組合連合会が発行した別府ガイド『温泉本』では、市内の88カ所に入浴してスタンプを集める型破りの温泉巡り「温泉道」を始めた。

 88湯を達成すると名人の称号を与えられ、金文字で「別府八湯 温泉道 名人」と刺繍された黒地の認定タオルがもらえる。柔道で言う黒帯といったところだ。

 これが全国にいる温泉マニアを刺激した。名人を極めた人は、今や1000人を優に超える。誇らしげに「第○代 温泉名人」と名刺に刷り込む人も出てきた。

まちづくり運動が「オンパク」に

 こうした一連の動きはまちづくり運動となり、2001年にイベント「別府八湯温泉泊覧会(通称:ハットウ・オンパク)」に進化する。オンパクは地域活性化の手法として全国の観光地から注目を集め、経済産業省がそのノウハウ伝播の支援を行うまでになった(オンパクについては、機会を改めて紹介したい)。

 「このまちが好き」という思いが連鎖し、次々と仲間や支援者が増える。「なんだか面白い!」は伝染するのだ。

 新しい価値を取り入れ、生まれ変わるのが再生。新しいアイデアは、楽しく面白がっている時に自然と生まれるようだ。