「世界経済は高い不確実性を内包する」という中央銀行の判断

 中央銀行の金購入が加速した主な背景は、マクロ政治・経済環境の不確実性が中短期的に終息しないとの判断によるものである。そのため、ドルやユーロなどの主要通貨への依存度を下げ、外貨準備における通貨分散を進める必要性がある。

 金は主要通貨、特に米ドルと長期にわたり負の相関関係にあるため、分散効果を持つ資産として積み増しされた。また、ロシアは欧米からの経済制裁に対抗するため、金の蓄積を大幅に増やした。ロシア中央銀行高官は、金を「財務クッションになる重要な資産」「国の対外資金流動性を支える不可欠な資産」と位置付けている。どの国にもコントロールされることなく、かつ、非常時にも値崩れせず換金できる金の流動性を評価しての施策である。

 中国は、人民元の国際化を推進するにあたり、信用力を担保するものとして金の保有高を積極的に増やし、信頼が揺らぐ米ドルやユーロなどの主要通貨との差別化を図っている。また、一部の国は欧米主要国における債務膨張への警戒感から、国の財政・金融問題や金融危機に影響を受けない金の保有量を増加させている。

 また、金はリスクヘッジ効果があるものの、何も産まない資産と言われてきたが、実は中・長期のパフォーマンスは悪くないこともよく知られるようになり、中央銀行の投資決定に影響を与えたと思われる。過去20年の累積リターンでみた場合、金は米国株式よりもパフォーマンスがよい。

 中央銀行による積極的な金購入は、多くの当局が、世界経済・通貨・金融市場が引き続き高い不確実性を内包し、地政学リスクも減少しないおそれがあることに対する懸念を主な背景にしている。世界政治・経済の専門家である中央銀行のこうした判断は重いのではないだろうか。

第2回 広がるSNSによる新しい金取引