この10年、ほとんどの先進国は金を売却していない

森田 隆大森田 隆大
森田アソシエイツ 代表

 1989年から2009年までの約20年間、長きにわたり外貨準備資産として保有した金を年平均で約400トン売却してきた中央銀行セクターは、2010年に再び積極的な金の購入者に転じた。2018年には652トンを購入し、ニクソンショック以降の最高を記録した(図表1参照)。2019年第1四半期もその勢いは衰えず、4四半期ローリングベースで史上最高を更新した。そのうえ、近年、金を購入した中央銀行の数も飛躍的に増加した。
 

 現在、金は米ドル、ユーロに次ぐ第3位の準備通貨であり、中央銀行全体が保有する外貨準備の約10%を占めている。また、世界に存在する金の約17%を中央銀行が保有している。

【図表1】中央銀行セクターの金需要中央銀行セクターの金需要出所:Metals Focus; Refinitiv GFMS Bloomberg; World Gold Council
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 ここ10年ほどの主な金の購入国は、ロシア、中国、トルコ、カザフスタン、インド、サウジアラビア、メキシコ、韓国、イラク、タイなどの新興国の中央銀行である。一方、金保有上位はいまだ米国、ドイツ、イタリア、フランスなどの先進国中央銀行によって占められている(図表2参照)。

 トップの米国は、ここ数十年、金を購入しなかったものの、欧州の主要中央銀行が積極的に金を売却した90年代においても、追随する行動を一切取らなかった。当時のグリーンスパン米連邦準備理事会(FRB)議長は、議会で「金は究極の支払い手段だ」と証言し、売却の可能性を強く否定した。余談だが、グリーンスパンはFRB議長を引退後、ヘッジファンドの講演会に招かれ、報酬として受け取りたい通貨を聞かれた際、金と答えたのは有名な話である。ここ10年は、米国同様、ほぼすべての先進国中央銀行は金の売却を行なっていない。

【図表2】中央銀行の金保有Top40中央銀行の金保有Top40出所:IFM IFS、ワールド・ゴールド・カウンシル