「ミッション」「ビジョン」「バリュー」が組織にもたらす強い効果

 では、ビジョンを共有できる組織づくりを実現するためには、どうすればいいのでしょうか。過去の組織は一般的に傘の骨型のピラミッド構図でした。しかし現在は、ミドルマネジャーが「中間」管理職ではなく「中心」の存在となり、社内メンバーや社外の人とネットワークを組む、網目型のコミュニケーションへと変化しています。つまり、意思決定権限は限られていても、チームとしてのミッションは、ミドルマネジャーが指針を示していかなければならないということです。

 これを体現したのが、2015年ラグビーワールドカップ(WRC)に出場した日本代表チームです。日本代表は初戦で、「絶対に勝てない」といわれた優勝候補の南アフリカを撃破しました。試合終了間際のラストプレーで、ヘッドコーチが着実に同点を狙うキックを指示したにも関わらず、円陣を組んだ時に木津武士選手が「同点じゃ歴史は変わらない」と一言放ち、キャプテンがその場でトライを取りに行くことを決断。メンバーの想いは固まり、わずかな時間で勝負をかけ、勝利できたのです。この勝因は、「目的」「目標」「計画」がチームで語られて共有され、一貫して実行されてきたことにあります。共通認識を持っていたからこそ、選手たち自身は最適な判断をできたのです。

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 ビジネスの世界でも、同様に革新的な事例があるのでご紹介しましょう。例えば、不可能といわれた米国マスキー法(排気ガス規制法律)を世界で初めて達成した、本田技研工業の低公害「CVCCエンジン」開発プロジェクトチーム。彼らは開発期間わずか2年で、排ガスレベルを従来の10分の1にまで削減しました。その背景には、当時アメリカで排気ガスにより空気が汚染され、健康被害も出ていたことがあります。彼らには、「子どもたちに青空を取り戻す」という使命があったのです。

 また、同じく下記の「他社の仕事の革新例」の通り、キリンビールや旭山動物園も、使命を持っていたからこそ目標を達成し、革新を起こすことができました。

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 これらに共通しているのは、「活動の目的」、つまり「Why」や「What for」が共有されていたことです。脳科学の視点から見ても、人間の脳は活動の目的が語られ、共有されると、情動を司る大脳辺縁系が刺激されてハイ・モチベ―ション状態になりやすいことが解っています。

 このように、「ミッション(使命)」、「ビジョン(目指す姿)」、「バリュー(価値観)」によって個々人のエネルギーが活性化されると、組織としてのベクトルも上がります。そして、その組織に属しているというプライドが高まるため、チャレンジが起こり、イノベーションに結びつきやすくなります。そうした効果は、企業の実例からも、脳機能の面からも証明されています。