株式会社リクルートキャリア(東京都・千代田区)は2019年8月5日、「会員の十分な同意を得ないまま個人情報を販売している」ことを認め、当該サービス『リクナビDMPフォロー』を廃止した。また、この問題を受け、政府の個人情報保護委員会は同月26日、リクルートキャリアに是正を求める勧告を出した。その経緯を整理しよう。
採用情報サイト『リクナビ』の関連サービスが「会員学生の十分な同意を得ないまま個人情報を販売している」という事実が明らかとなった。
問題となったのは株式会社リクルートキャリアが提供している『リクナビDMPフォロー』。このサービスでは、前年度応募学生が残した『リクナビ』上の行動ログなどを解析し、当該企業に対する応募行動についてのアルゴリズムを作成。そのアルゴリズムと今年度応募学生の行動ログを照合して算出した「採用選考のプロセスが途絶えてしまう可能性」、つまりは“選考を辞退する確率”を企業38社に提示(販売)していたのだ。
この件について、個人情報保護委員会から学生への説明が不十分との指摘を受けたリクルート側は、2019年7月31日にサービスを一時休止した。ただし、辞退率予測を提供している背景として「内定者フォローを強化している企業も増えつつある」ことをあげ、また「学生の能力を推し量るものではありません」「合否の判定には当該データを活用しないことを企業に参画同意書として確約いただいています」と発表。
つまり、辞退の可能性がある学生に対して企業が適切なフォローを実施するための情報である、との姿勢を取ったわけだ。また、企業に情報を提供する可能性があることを示すプライバシーポリシーについても、あくまで「表現が伝わりにくかった」との見解で、それゆえ“サービスの一時休止”にとどまっていた。
だがその後の社内調査で、2019年3月にプライバシーポリシーを変更した際、一部画面で『リクナビDMPフォロー』に関する表記漏れが発生していたことなどにより「7983名の学生の皆さまから適切な同意を得られていない状態」である事実を発見。対象の学生にメールで謝罪するとともに、同サービスを利用していた全企業には提供した個人情報を削除するよう依頼し、さらに「学生の皆さまの心情に対する配慮不足こそが、根本的な課題」として『リクナビDMPフォロー』の“廃止”を決定、8月5日に発表した。
こうした状況を重くみた政府の個人情報保護委員会は、利用者のデータを同意を得ずに第三者に提供したことなどが個人情報保護法違反にあたると判断。8月26日、リクルートキャリアに対して経営陣を含めた意識改革と個人情報を扱うのに適切な体制整備を求める勧告と、今後利用目的を明示するよう指導を行った。
これを受け、リクルートキャリアは「今回の勧告・指導を厳粛に受け止め、今後このような事態が再発することのないよう経営、従業員一丸となって改善対応に取り組んでまいります」とコメントを発表し、ガバナンス強化に向けた対応策を明らかにした。
掲載企業3万社以上、就活生の7割あるいは8割が利用しているともいわれる『リクナビ』。新卒採用シーンで重要な役割を果たしているサイトであるだけに反響は大きく、大手メディアも相次いでこの件を取り上げることとなった。
辞退率の販売は許されることなのか、プライバシーポリシーの記載が十分なら企業への販売を学生が容認したと考えていいものなのかなど、ビッグデータの活用やモラルについて多くの議論を呼んでいる。しかし、今回の問題の本質は個人情報保護の扱いにあることを見落としてはいけない。HRテクノロジーやビッグテータを適切に管理、運用するためにも、モラルも含めたルール整備が必要ではないだろうか。