——ヤフーは、アスクルとロハコの業績不振が岩田社長を取締役に選任しない理由だと説明しています。

「それはヤフーが無責任だよね。ロハコはヤフー主導で運営してきたんだから。

 社長を替えれば何とかなる、という次元の話ではないよ。少数株主の意見が無視されてるって? そんなの日本じゃ、どの会社でも同じでしょ。まあ私は岩田さんの再任に丸をつけましたけどね」(60代男性)

大株主ヤフーはアスクルの利益を最優先にする義務が

 アスクルの少数株主である個人投資家に共通していたのは「大株主には敵わない」という、ある種の諦観である。少数意見が無視される市場からは「自分たちが何を言っても無駄」と投資家が離れていく。政治不信が投票率の低下を生むように、市場不信は株価の低迷につながる。

 今回の株主総会で少数株主の怒りが爆発することはなかったが、長期の視点で日本の資本市場の健全な発展を考えた時、個人投資家の市場不信を増幅してしまった恐れがある。

取材に臨む筆者(本人撮影)

「総会の開会に先立ちまして、当社と当社株主のヤフー、プラスの間でガバナンスやロハコ事業を巡る対立があり、皆様にご心配をおかけしたことをお詫びいたします」

 アスクルの株主総会は定刻10時に始まり、冒頭で議長の岩田社長が一連の騒動について陳謝した。

 大幅な減益となった2019年5月期の業績について岩田氏は「倉庫の火災と(大手宅配会社が人手不足を理由に運賃を値上げした)、いわゆる宅配クライシスによる一過性のものであり、新たな物流センターの開設や自社配送への切り替えなど対策は打っており、2020年5月期には大幅な業績回復を見込んでいる」とV字回復をアピールした。

 これに対しアスクルの社外取締役で、ヤフー専務の小澤隆生氏は岩田氏について「昨今の業績、株価の低迷により再任しないことに決めた」とした上で「非常に由々しき緊急事態だったと考えている。赤字は看過できない」と「解任」の正当性を主張した。

 また「ロハコ事業をアスクルから分離してヤフーが吸収するのか」と問われた輿水宏哲取締役(ヤフー出身)は「今は譲渡することはない」と答えた。

 岩田氏はこれまで「ヤフーから『ロハコ事業を分離できないか』と打診され、分離を拒否したら『取締役に再任しない』と言われた」と説明してきた。これが事実ならヤフーがアスクルと業務資本提携を結ぶ際に交わした「アスクルの経営の独立を尊重する」という契約に違反しており、アスクルにヤフーの持ち株を買い取って提携を解消する権利が発生する。このため、ヤフー側は「ロハコ分離はあくまで打診しただけで、大株主として圧力はかけていない」と防衛線を張っているわけだ。

 しかしヤフーが岩田氏の経営手腕に「問題あり」と考えていたなら、アスクルの指名委員会が岩田氏の再任を決めた段階で異を唱えるべきであり、後任の指名もなく株主総会で再任に反対した今回のやり方では、アスクルの経営を混乱させるだけである。

 金融庁の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」メンバーでもある経営共創基盤CEOの冨山和彦氏は「アスクルの大株主であるヤフーには、アスクルの利益を最優先に考えて行動する責任がある」と指摘する。実質的な創業者である岩田氏を「解任」した後、アスクルの経営が迷走するようだと、ヤフーはアスクル株主としての責任を問われることになりかねない。