立法会に突入し一時占拠した香港のデモ隊(2019年7月1日、写真:ロイター/アフロ)

(福島 香織:ジャーナリスト)

 今回のコラムテーマも香港だ。今、ちょうど香港でこの原稿を書いている。7月3日早朝に香港に着いた。週末は残念ながら東京で動かせない用事があるので5日にとんぼ返りだが、やはり香港でしかわからないことはある。

 香港到着早々、抗議の自殺予告をSNSに投じた若者(6月12日デモの参加者)をSNSでつながるみんなで探し回った。死ぬくらいなら、一緒にデモを続けよう、と。今の香港で見かけるのは絶望的な顔、悲しんでいる顔、傷ついている顔、怒り心頭の顔、心配顔。一番多いのは諦め顔。ただデモに参加して、仲間を戦友と呼ぶ人たちは少しだけ元気がある。デモというのは、今の香港で唯一の戦う方法であり、希望だ。

 探し回っているとき、別の若い女性が衝動的に自殺しようとしたのを、みんなが取り押さえているのに出くわした。そこへ親中派デモ隊が「立法会占拠に市民が怒っている」と叫びながら垂れ幕を持ってやってきた。通行人含め、その場に居合わせた人たちが全員、「香港加油!(がんばれ)」と叫びだした。さっきまで自殺しようとしていた女性も泣きながら香港加油!と叫び出し、しばらく「香港加油!」のシュプレヒコールがこだました。叫んでいるうちに彼女は生きる勇気を取り戻したようだった。自殺予告の男性も午後には安全が確認された。みんなに説得されて思い直したようだ。でも、逃犯条例改正に抗議する自殺者がこの日までに3人以上、出ている。

勇武派集団が立法会を占拠

 7月1日の香港デモ隊の立法会占拠が、非暴力を掲げる香港デモらしくない、として国際社会からちょっと批判されている。でも私は彼らを少し擁護したい。彼らの過激な行動の背景には、こうした自殺騒ぎに象徴される絶望がある。

 香港の若い友人は「“勇武派”(ある程度の暴力を肯定する一派)の仲間を止められなかった責任は感じている。でも、仲間割れはしていない。目的は1つで、みんな香港の自治を守ろうとしているだけ」と言う。

 香港が英国から中国に引き渡されて22年目の7月1日は、民間人権陣線(民陣)の呼びかけによる恒例の香港市民デモ(「七一デモ」)が行われた。毎年、一国二制度の維持を求めて行われるが、今年のテーマは「反送中」(中国に身柄を送ることに反対する)。つまり6月9日の103万人規模のデモから断続的に続く「逃犯条例」(容疑者を中国に引き渡す条例)改正に反対する一連のデモの延長ともいえる。

 参加者は主催者発表で55万人。これは2003年の「反国家安全条例」50万人デモ、2014年の普通選挙要求デモの51万人デモを超える規模だ。6月16日の「200万人+1人」(注)デモと比べると減ったという印象を持つかもしれないが、猛暑の香港でこれだけの人出があったことは、香港人の香港政府とその背後の中国に対する根深い不信を物語っていると言えるだろう。

(注)「200万人+1人」デモの「+1」は、6月15日にパシフィックプレイスで抗議の飛び降り自殺をした35歳の男性の「魂」を指す。