(池田 信夫:経済学者、アゴラ研究所代表取締役所長)
通常国会が閉幕し、参議院選挙の選挙戦が事実上スタートした。各党から公約が出ているが、今年の最大の焦点は10月に控えた消費税の増税である。安倍政権は予定通り引き上げる方針だが、これは景気が減速してきた中でタイミングが悪い。
野党はそろって増税反対を主張しているが、中でも目立つのが「消費税の廃止」を主張する山本太郎氏のれいわ新選組である。6年前には反原発を唱えるだけの泡沫候補だったが、今年は東京選挙区で当選確実といわれる有力候補である。今回は演説でも反原発は消え、テーマを消費税に絞り込んでいる。
日本にも波及した「反緊縮」運動
この背景には、世界的に盛り上がる反緊縮運動がある。その発端は2009年に始まったヨーロッパの債務危機だった。財政危機に陥った南欧諸国に対してEU(欧州連合)は金融支援を渋り、財政が破綻したギリシャでは失業率は20%以上になった。
しかしEUは各国に財政赤字の削減を求めたため、危機はユーロ圏全体に波及し、成長もマイナスが続いた。これに反発して出てきたのが反緊縮運動である。ギリシャの財務相だったヤニス・バルファキスは「借金を免除することが資本主義の本質だ」と主張した。
資本主義は借金で事業を起こすシステムなので、失敗した場合は借金を免除しないと大きなリスクを取ることができない。その借金を管理するのが銀行で、銀行の借金を管理して金融危機のとき救済するのが政府の役割だから、ギリシャの財政危機はEUが救済すべきだという彼の論理は我田引水だが、格差の拡大するヨーロッパで大きな支持を得た。
それがアメリカにも波及したのが、民主党左派のMMT(現代貨幣理論)である。有力な大統領候補バーニー・サンダースは「失業者をすべて政府が雇用する」という「雇用保障」を公約している。そういう流れが日本にも来たのは、むしろ遅すぎるぐらいだ。
山本氏が掲げる「消費税の廃止」は、MMTとよく似た発想だ。それによって18兆円の歳入がなくなるが、その穴は日銀が国債を買って埋めればいい――これは他の野党もいわない無責任な話だが、論破するのは意外にむずかしい。