ロシア・モスクワの赤の広場

(佐藤 けんいち:著述家・経営コンサルタント、ケン・マネジメント代表)

「ロシアゲート」(Russiagate)に関する最終調査報告書が、特別検査官から司法長官に提出されるというニュースが流れている。トランプ大統領は、眠れない日々を送っていることだろう。

 ロシアゲートとは、ロシアがらみで米国のトランプ大統領が関与しているとされる疑惑のことだ。1972年に発覚し、その2年後に共和党のニクソン大統領(当時)を退陣に追い込んだ「ウォーターゲート」(Watergate)事件をもじったネーミングである。

 2016年の米国大統領選で、ロシアに厳しい姿勢をとっていた民主党のヒラリー・クリントン候補を落選させ、共和党のドナルド・トランプ候補(当時)を勝利させるために、ロシアがサイバー攻撃やSNSを使った世論誘導工作と選挙干渉を行ったとされている。その際、ロシア政府とトランプ氏が共謀していたのではないか、というのがロシアゲート疑惑の焦点である。

ネット時代以前からあったデマの拡散

 2016年に英米アングロサクソン社会で相次いで発生した、世界を揺るがせた衝撃的事件は、英国のブレクジット(EU離脱)と米国のトランプ大統領誕生であったが、両者ともにその背景には「フェイクニュース」の存在があったという主張がある。

 フェイクニュースは2016年に登場した新語だ。ネット上に投稿された偽情報が、瞬く間にリツイートやシェアによって拡散され、特定の政策の実現に向けて有権者を誘導していく。まさにネット時代ならではの現象である。人間には見たいもの、聞きたいものにしか注意しないという認知バイアスが存在するのだが、この傾向がネットによって増幅しているのである。情報洪水時代だからこそ、選択の幅が狭い方が精神的にラクになる。

 2018年には、SNSを代表するフェイスブックの個人情報漏洩事件も大きな話題になった。流出した個人情報が離脱賛成サイドに利用され、EU離脱の是非を問う英国の国民投票に影響を与えたという主張もある。それ以降、全世界的にフェイスブック離れも進行している。

 ロシアによるサイバー攻撃の対象は米国に限った話ではない。英国や欧州大陸でも活発だと言われている。ソ連が自壊してからすでに四半世紀以上も経っているが、かつての冷戦時代を思わせる事態が進行している。その冷戦時代に米ソ間で激しいプロパガンダ合戦が行われていたことは、当時のことを知る人にとっては常識だといっていいだろう。デマや偽情報、プロパガンダや陰謀論の拡散はネット時代以前から行われていた。

 ロシアのプーチン大統領が、ソ連時代に情報機関KGBの将校であったことは周知の事実だ。情報統制と情報操作による専制国家的な強権体質が、ソ連崩壊後にもロシアにも引き継がれていることは明らかだろう。情報操作の体質が、ネット時代に新たな展開を見せているのである。