神事にしきたり、ワカメと絡み合う日本人の食生活

日本の縁深き海藻、その歴史と現在(前篇)

2019.02.08(Fri)漆原 次郎

 醍醐天皇の皇子の重明親王が書いた『吏部王記(りほうおうき)』の「和銅三年、豊前国隼友神主和布刈神事之和布奉」という記述から、少なくとも710(和銅3)年には当地で和布刈神事が行われていたことが分かる。1300年以上の歴史ある神事だ。対岸の住吉神社(山口県下関市)や、出雲大社の北西にある日御碕神社(島根県出雲市)でも、それぞれ和布刈神事が行われている。

 ワカメは「磯の口開け」の対象となってきた。これは、海藻や貝類などの「磯もの」の採取を解禁すること。漁をする人びとは口開けを待つ。海の資源が限られているがゆえに、持続的に利用しようという、人びとの生きる知恵ないし自制心からくるしきたりだ。

 口開けを迎えると漁村は活気づいた。三重県の民俗研究家だった上村角兵衛は、雑誌『民間伝承』の1969年10月号に「口開けの日は、村の過半が浜へ出るので、夕刻には若布の匂いが村中にひろがる。生のメカブが、お寺や海へ出ない家へ、近しいものから配られる」と描写している。限りある自然の恵みを使うことの喜びと感謝の心を、人々は抱いてきた。

炙る、つける、吸い物に入れるもまたよし

 食材としてのワカメの価値は、やはり保存性にあったのだろう。収穫後、放っておくとワカメは溶けていってしまう。そこで、長持ちさせるための方法がいくつも考えられた。

 まず、乾かすこと。素干しもあるが、材料を使う点で特筆すべきは「灰干し」だろう。江戸時代の終わり頃、鳴門地方(今の徳島県)で考案されたもので、浮世絵師の暁鐘成が記した『雲錦随筆』には、「灰を糢(まぶ)し干乾したのを灰干の和布と号する。幾許の年を重ねども湿ることなし。用ゆる時は熱湯をかければ忽ち和(やわらか)くなり、色よく味わいも美なり」とある。

鳴門の灰干しワカメ。灰をつけることで、吸水性を高めたり、葉と葉の付着を防いだりして、乾燥の効果が高まる。
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