1994年当時、米国側はビル・クリントン政権、韓国は金泳三政権だった。金泳三政権自体は比較的安定していたが、ちょうどこのころ、北朝鮮の核兵器開発への動きが米朝関係を緊迫させるようになった。北朝鮮の軍事脅威が米韓両国に重大に認識されるようになっていたのだ。

 ところがそんな時期であるにもかかわらず、韓国軍は北朝鮮との戦闘に不可欠の地上戦力を強化せずに、海軍や空軍の増強に力をそそごうとした。その動機は、日本を脅威とみる認識だった。

 この歴史的な事実は現在の日韓関係の悪化をみるうえで重要な意味がある。韓国側の日本敵視はこれだけ根が深いのである。

WSJが伝えた米国政府の強い不満

 日本を脅威と捉える韓国側の認識と、その認識に基づく防衛政策について、私は翌年(1995年)にもワシントンから同じ趣旨の記事を発信した。1995年1月19日の産経新聞朝刊国際面の記事である。見出しは《米、韓国の防衛政策に不満》で、内容は以下のとおりである。

《【ワシントン17日=古森義久】韓国の防衛が当面最大の脅威とされる北朝鮮地上軍よりも日本へ重点を置き軍事力整備が進められていることに対し、米国政府が強い不満を抱いていることが17日付の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの報道で伝えられた。
 同紙はソウル発で米国の国防当局が同盟国の韓国の防衛政策に強い不満を抱いていることを報じた。この記事は「韓国国防省は長期の脅威としては北朝鮮よりも日本を恐れている」「米国政府当局者は韓国の北朝鮮への対抗戦闘能力を疑問視している」という見出しで、ソウルの韓国防衛関係者や在韓米軍当局者の説明を伝えている。
 同記事によると、韓国軍当局は「360度防衛」の標語の下に長期の脅威としては北朝鮮よりも日本を第一に位置づける方針をとり、北朝鮮への抑止、防衛の中心となる地上兵力の強化よりも海軍、空軍の増強に重点を置く傾向が続いてきた。この政策の表れとして韓国軍は潜水艦、偵察衛星、駆逐艦などの調達に力を入れているという。
 さらに同記事によると、韓国の同盟国として共同防衛にあたる米国としてはこの韓国の「日本脅威」戦略に明確に反対し、韓国軍が北朝鮮への防衛を在韓米地上軍に依存する度合いを減らすことを要請している。(以下、略)》

 

日本の防衛態勢を専門に研究する部門も

 さらに私はこの記事に対して、「視点」というタイトルの短い解説記事を書いた。その記事は本体の記事と同じ日の紙面に掲載された。全文を引用しよう。