日米通算313セーブをあげた球史に残るクローザーは今、「二軍」に(写真:アフロ)

 プロ野球界の世界において資金力でいい選手を集めることができるのは限られた球団だけ。丸佳浩も、炭谷銀仁朗も簡単に獲得はできない。

 じゃあどうするか、と言えば「育てる」ということになる。

 2018年シーズン、東京ヤクルトスワローズは2位とその順位を大きく伸ばしたが、中でも期待を持たせたのは後半戦の若手――「育て上げた選手」の活躍だった。

 果たして彼らはいかにして育ったのか。ヤクルト二軍監督である高津臣吾はそのエッセンスを今オフ一冊にまとめている。タイトルは『二軍監督の仕事』。すでに3刷り2万部と順調な売れ行きを示しているそうだ。

 その高津臣吾氏に話を聞きにいった。(スポーツライター、小川誠志)

初打席初本塁打に盛り上がった「LINE」

 村上宗隆。

 高校野球ファンならばその名前を聞いたことがあるだろう。東京ヤクルトスワローズの18歳、清宮幸太郎に注目が集まった2017年のシーズンのドラフトのなかで、もう一人のスラッガーとして各球団が熱視線を注いだ選手である。

 事実、ヤクルト、読売ジャイアンツそして東北楽天ゴールデンイーグルスが清宮の外れ1位として村上を指名、競合の末ヤクルトが獲得した。

「スケールが大きい選手。必ず将来のヤクルトの4番を担う。そういうつもりで指導しています」

 ヤクルト2軍監督の高津臣吾が言うように、期待は大きい。

 その村上、高津監督率いる二軍で圧倒的な数字を残し、シーズン終盤の9月16日には、1年目にして1軍昇格・即スタメンを勝ち取る。そして高津二軍監督が「忘れられない」と語る衝撃的なデビューを果たす。

 広島戦の2回裏1死二塁。公式戦初打席、緊張感を漲らせた村上は、広島の先発・岡田明丈の放った138キロのフォークを、強く振り抜いた。

 大歓声。

 打球は右翼席へ吸い込まれる。プロ初打席初本塁打。将来の4番打者と期待される逸材の派手なデビューに、盛り上がったのは神宮球場のライトスタンド・・・だけではなかった。高津二軍監督が振り返る。

「僕と二軍のコーチやマネージャーたちとのグループLINEがあるんです。そのLINEの盛り上がりがやばかった! みんなが興奮して、“よかったね!”っていうLINEがどんどんどんどん入ってくるんです。打ったことと合わせて、指導してきたみんながこんなに喜んでるんだって、ちょっとウルっときました。僕だけじゃなくて、他のコーチもみんなそうだったと思います」