伊達由尋さんが作った鬼瓦作品「般若」

 日本の職人の“匠の技”は世界的に評価が高いが、わが国の伝統産業の多くは衰退に歯止めがかかっていない。守るべき部分と変えるべき部分を的確に識別した上で時代に即した大胆な変革を行うことは喫緊の課題である。

 今回ご紹介するのは、鬼瓦産業という衰退が進む伝統産業分野において、変革への挑戦を続ける鬼瓦製造企業「伊達屋」伊達由尋さん(25)である。

 彼女は、2017年、5年間を超える修業を経て初めて受験を許される愛知県鬼瓦技能製作師(鬼師)評価試験に合格した全国最年少の女性鬼師である。

古代ローマ帝国に起源を有する鬼瓦

 日本の瓦は、古来、「石州瓦」(島根県石見地方)、「淡路瓦」(兵庫県淡路島)、「三州瓦」(愛知県三河地方)が“三大瓦”と呼ばれ、現在、三州瓦が全国シェアの7割を占めている。その生産の中心地は、伊達さんの活動拠点・愛知県高浜市だ。

 瓦の中でも、瓦葺き建築物(神社仏閣や伝統的日本家屋)の屋根の最上部の水平部分(=大棟)の両端と、大棟両端から屋根の流れに沿って下降する部分(=降棟)の先端についている装飾瓦を「鬼瓦」という。

 瓦の多くは、瓦メーカーが機械生産を行い、普通の家の鬼瓦は、鬼瓦屋が機械生産している。それに対して、社寺仏閣などの特殊な鬼瓦制作は多くの伝統技術から成り立っており、基本的には、鬼師の手作業によって制作される。

 鬼瓦の起源は、古代ローマ時代に中東シリアのパルミラ神殿の入口に“魔除け”として設置されたメドゥーサだと言われている。メドゥーサとは、ギリシャ神話に登場する、髪の毛が毒蛇で背中に黄金の翼を背負った怪物である。これがシルクロードを伝って中国にもたらされ、さらに中国から最新の文物を吸収しようとしていた日本に伝わった。西暦588年のことだ。