【写真】東京地検はカルロス・ゴーン氏を起訴できるのか(写真:ロイター/アフロ)

 日本ばかりか世界中に衝撃を与えた「カルロス・ゴーン会長の逮捕」。報道で先行していた朝日新聞は、ゴーン氏の”疑惑”について続報を流すことに余念がないが、報じられる事実を見ていくと、ゴーン氏の起訴は容易ではなさそうだ。「企業のカネで私腹を肥やした強欲経営者」を排除したとして喝采を浴びたかに見える東京地検と朝日新聞だが、実はいま、ジリジリと土俵際まで追い詰められだした。元検事の郷原信郎弁護士が事件を分析する。(JBpress)

何が逮捕の容疑事実なのか

 11月19日夕刻、東京地検特捜部は、日産自動車のカルロス・ゴーン会長とグレッグ・ケリー代表取締役を金融商品取引法違反の容疑で逮捕した。東京地検の発表によると、容疑事実は、「2015年3月期までの5年間で、実際にはゴーン会長の報酬が計約99億9800万円だったのに、有価証券報告書には合計約49億8700万円だったとの虚偽の記載をして提出した、役員報酬額の虚偽記載」ということだったが、一般的には虚偽記載罪は粉飾決算に適用されることが多く、役員報酬の虚偽記載というのは、これまで聞いたこともなかった。

 検察当局が「ゴーン会長に対する報酬額を実際の額よりも少なく有価証券報告書に記載した」ということ以外、「役員報酬」の具体的な中身を全く明らかにしなかったため、肝心の、逮捕の容疑事実が判然としないまま、ゴーン氏の様々な「悪事」が暴き立てられ、ゴーン氏逮捕は「司法取引」を活用した検察の大戦果であったような「大本営発表的報道」が行われてきた。

 逮捕の容疑事実については、断片的な情報や憶測が錯綜し、報道は迷走を続けてきたが、11月24日の朝日新聞と読売新聞の朝刊一面で、「虚偽記載」とされたのは、ゴーン氏が日産から「実際に受領した報酬」ではなく、「退任後にコンサルタント料等の別の名目で支払うことを約束した金額」だったことが報じられ、その後、ケリー氏側が、容疑事実について、「将来の報酬として確定していなかった」と主張して否認していることも報じられたことで、容疑事実が、退任後に支払予定の役員報酬だったことは、ほぼ間違いないと思える状況になっている。

退任後の「支払の約束」について記載義務はあるのか

 実際に支払われていない、退任後に「支払の約束」をした金額について、有価証券報告書の「役員報酬」の欄に記載する義務があるかどうかについては、重大な疑問がある。

 過去に現実に受領した役員報酬は、その手続きに重大な瑕疵があったということでもない限り、返還ということは考えられない。一方、退任後の「支払の約束」の方は、退任後に顧問料などの「別の名目」で支払うためには、日産側での改めて社内手続を経ることが必要となる。不透明な支払は、内部監査、会計監査等で問題を指摘される可能性もある。

 仮に、今後、日産の経営が悪化し、大幅な赤字になってゴーン氏が引責辞任することになった場合、過去に支払う契約をしていたからといって、引責辞任した後の経営トップに「報酬」を支払うことは、株主に対して説明がつかない。結局、「支払の約束」の契約をしていても、事実上履行が困難になる可能性もある。