――JDIから生産ラインを取得される時に、JDIの大株主である産業革新機構からJOLEDに直接現物支給されるという話が最初にありましたが、実際にはどのような出資方式だったのでしょうか?

加藤 産業革新機構が弊社に対して現金出資いただき、同額でわれわれが、産業革新機構が所有していた能美工場を買い取りました。

――印刷方式有機EL量産ラインの構築のため、調達目標を1000億円と設定されています。今回は、そのうちの470億円を資金調達されましたが、今後の計画はどうですか?

加藤 必要な資金を必要な時期に調達すべく、投資家とのコンタクトを進めています。

起死回生の戦略のための体制構築

 JOLEDは、2018年8月23日に、今後の事業展開に大きく関わる2つの事業戦略を発表した。

 1つは、先にのべた有機EL量産に向けた第三者割当増資による総額470億円の調達だ。

 もう1つが、大型テレビ向けの印刷方式による有機ELディスプレイの「技術外販」を推進する業務提携だ。

 つまり、JOLEDは、中型の「量産」と、大型の「技術外販」と、「モノとサービスの両面戦略」を取っている。

 この「モノとサービスの両面戦略」に対応した組織体制を、2018年7月に構築した(図3)。

【図3】中型の「量産」と大型の「技術外販」のJOLED組織体制(JOLED資料より)

 印刷方式の技術開発は、技術開発本部が行う。また、製品の生産は生産本部が担い、生産本部のもとに、能美事業所と石川技術開発センターの生産ラインがある。

 営業や顧客向けの設計は、製品事業本部が担当する。

 有機ELディスプレイの「技術外販」は、大型パネル事業推進本部が行う。

 新規用途や価値を提案し新規事業を推進するのは、New Biz.推進本部である。先日発表されたesports向けディスプレイパネルの開発にむけたパートナーシップの締結などを行っている。

 このように、起死回生の戦略を実施するため、組織体制が構築された。

JOLEDが抱えるリスクと寄せられる期待

 JOLEDは、世界で初めて印刷方式有機ELディスプレイを市場に出した。

 韓国有機ELに印刷方式で挑む、起死回生の可能性を秘めている。大いに期待できる。

 ただ、印刷方式有機ELディスプレイを量産の軌道に載せるには、まだまだ乗り越えるべき壁がたくさんある。

 技術経営(MOT)には、「技術の不連続性」という言葉がある。既存製品に対して、新製品の製品特性が劣っていても市場に出されるということである。既存製品と新製品の技術が連続せず、不連続であることだ。「世界初」という称号を得るために、価格が高くてもリスク覚悟で市場投入するのだ。

 ソニーは、世界初の有機ELテレビを、2007年末に市場投入した。この時の価格は、11インチ20万円であり、液晶に比較し非常に高かった。

 LGも、白色蒸着式の有機ELテレビを初めて市場投入した時は、50インチ級で価格は約100万円であった。しかし、現在は、LGの55インチ有機ELテレビは、20万円以下となっている。

 JOLEDも、量産化に向かうこれからが正念場である。

 そこでは何が課題なのか?

 技術的な課題は、量産技術の確立とともに、製品の要求仕様を満たす輝度・寿命の改善である。

 現在は、高輝度が求められず、白黒の階調性に優れるという有機ELの特長を生かせる、医療用モニターという最適な応用製品からスタートしたのは、素晴らしいマークティング戦略である。

 しかし、これから、応用製品を、モニター、PC、車載等へ拡大して行くには、輝度と寿命の更なる改善が不可欠である。特に、大型の「技術外販」を成功させるには、テレビ等への応用の為に、輝度と寿命の改善が必要である。

 筆者が、シャープ株式会社の中央研究所に入社した約50年前の目標は、「壁掛けテレビ」であった。現在は、すでに達成されてしまっている。その時、われわれのグループは、「無機ELディスプレイ」を研究していた。無機の発光層を絶縁膜ではさみ、交流約200Vをかけて発光させるもので、有機ELとは全く異なる。無機ELディスプレイで世界で初めて1万時間の寿命を達成した。その成果で、1988年に、発明協会会長賞を受賞した。しかし、黄色しか実用レベルで発光できず、他チームが平行して開発していた液晶が実用化された。自慢話をしているのでは無い。最終的にテレビに応用するには、さらに寿命を改善することが重要なのだ。

 印刷方式の寿命の現状は、日本の有機EL材料メーカーが近年発表したデータによると、輝度5%劣化時間は、赤5800時間、緑15000~25000時間、青400~750時間となっている。

 有機材料の寿命は、不純物の影響が大きい。蒸着方式の場合、蒸着の工程で不純物が取り除かれる。

 しかし、印刷方式の場合、この精製の工程が無く、不純物が残りやすく、寿命を改善しにくい。

 挑戦にはリスクはつきものである。リスクを取らなければ、韓国に追いつき追い越せない。

 JOLEDが、印刷方式の課題を克服され、渾身の戦略で起死回生を図られることに、筆者は大きな期待を寄せている。