その後、2013年には台湾の女性社会学者・陳美華氏が上陸して島内でフィールドワークを実施。島を訪れる中高年の台湾人男性たちの動機が単純な性行為ではなく、疑似恋愛を求めるものであったと分析している。

裏にあったのは人民解放軍利権か?

・・・とまあ、もはや20年近くも続く伝統産業と化していた下川島の性産業だが、2015~17年くらいにかけて一気に衰退し、現在はすでに壊滅に近い状態にある。島は近隣地域の中国人が子連れで海水浴に訪れるような、健全なファミリーリゾートに変貌したという。

2017年、下川島の旅行記を掲載する中国の旅行サイト『携程網』の記事。すっかりさわやかな島に変わってしまった

 そのワケは、過去の下川島が「荒淫の島」として発展した理由と表裏一体だ。下川島はもともと全域が人民解放軍の管理下に置かれていたほど軍の影響が強い場所であり、巷説によると現地の性産業は軍の利権だったとされる。

 事実、台湾などで公開された軍事情報を確認すると、下川島には中国人民解放軍海軍・南海艦隊の潜水艦第52支隊(91024部隊傘下)の基地が置かれ、隣接する上川島にも第26ミサイル快速艇大隊が配備されている。

 人民解放軍はもともと陸軍が主体の軍隊であり、往年は海防にまったくヤル気がなかった。ことに中国がまだ貧しかった1990年代には、人民解放軍は深刻な資金難に悩み、党から資金調達策としてさまざまな副業を認められていた。当時の下川島のリゾート開発もその一端だったかと思われる。

 だが、中国の国力が増大して南シナ海への支配を強めるようになったゼロ年代からは海軍へのテコ入れが進み、2013年ごろからは下川島の第52支隊が急速に拡大されだした。下川島は南シナ海への入り口にあり、台湾にも近いため、台湾への武力侵攻を検討する上では地政学的に重要な島だ。1990年代とは違い、ちっともユル場所ではなくなったのである。