筆者がこれらの考え方を説明した後、戴社長から質問があった。

「『すり合わせ国際経営』の提案は、鴻海がシャープに出資してからですか?」

「いいえ。シャープへの出資以前の2015年からで、基本は変えていません」

「国際垂直統合」実現、そして「共創」への期待

「すり合わせ国際経営」をさらに深く分析すると、「国際垂直統合」と「共創」に分けて考えられる。

 シャープの亀山工場は、上流の部品である液晶パネルと、液晶テレビ組立の工場が同一場所にあり、「垂直統合」と呼ばれる。

 グローバルに上流と下流を連携することは、「国際垂直統合」と呼ぶ(図3)。

 シャープは研究・開発に強く、鴻海は生産・販売に強い。このため、両社の強みを活かした「国際垂直統合」によりグローバル競争に展望を持てる。

【図3】「国際垂直統合」から「共創」へ

 この「国際垂直統合」で、今回の「シャープ白物家電撤退」が読み解ける。

 シャープの役割を3分野に絞り込む。「技術開発」「サービスなどの企画」「高付加価値のデバイス」である。「生産」は鴻海が中国等にもつ拠点を活用して行う。これで経営再建に向けた足場を固めるのである。

 戴社長は、こう発言している。

「国内生産は技術力のあるデバイスに限り、商品は海外で生産する」

 まさに、私が2015年に提唱した「すり合わせ国際経営」の神髄だ。

 戴社長は、8月3日の「白物家電撤退」発表に際しては、こう言っている。

「約2年前から慎重に検討を重ね、『苦渋の決断』に至った」

 シャープと鴻海の提携の意図である「国際垂直統合」の視点からすれば、グローバルな「最適地生産」は「必然」である。しかも、トップダウンでなく、従業員のコンセンサスを得ながら進めようとされる。まさに、戴社長の鴻海流「日本型リーダーシップ」と言えるだろう。

 戴社長との面談の最後で筆者は聞いてみた。

「シャープと鴻海が一緒になって価値創造する『共創』が重要です。例えば新興国向けの液晶テレビを開発・生産するプランはどうですか?」

「開発のスピードが遅い。このため、国内と国外の組織に分ける計画だ」

 これが、戴社長の回答だ。

 今後のシャープと鴻海の「共創」に期待する。