リーダーシップとは、リーダーのパワーで生まれるものではない。

 最近のリーダーシップの研究では、リーダーとフォロワーの相互作用が注目されている。「喜んで付いてくる人達」、つまりフォロワーが重視されているのだ。

 ゴーン氏が、チームで乗り込み、高額の報酬を得るのを「西洋型リーダーシップ」と呼ぶとすれば、戴社長のリーダーシップは大きく異なる。「清貧」で、創業の精神を継承しながら、鴻海流で「有言実行」する。これにより、フォロワーからの「信頼」を得るリーダーシップなのである。

 言うなれば、戴社長のスタイルは、鴻海流「日本型リーダーシップ」と言える。

「すり合わせ国際経営」が予測するシャープ・鴻海提携

 その戴社長の下でシャープと鴻海の提携が目指す方向を考えてみよう。

 筆者は、日本の強みである「すり合わせ」を発揮し、弱みである「グローバル化」を克服して、これらを統合するビジネスモデル「すり合わせ国際経営」を提案した。

 このモデルを、2015年2月に出版した『シャープ「液晶敗戦」の教訓』に記した。

 このビジネスモデルに基づけば、シャープと鴻海の提携は、補完関係にあり非常によい組み合わせだと提案した。当時はまだ鴻海のシャープ本社への出資は決まっていなかった。

 債務超過のシャープに対する出資を、産業革新機構と鴻海とで争ったのが2016年1月。その結果、鴻海が勝って提携が実現したのだ。

戴社長に説明した「すり合わせ国際経営」

 実は筆者は、この7月に、戴社長からの依頼により、私の考え方を説明する機会を得た。

 シャープ株主総会後に、戴社長が段上から降り、株主たちと握手して回られた。

 この時に、私も戴社長と握手する際に、自著である『シャープ「企業敗戦」の深層』を手渡していた。戴社長からの「本人ですか?」との問いに、既に読んでくれているのかという感触を得ていた。

 それから間もなく、戴社長から連絡をもらい、面談の機会を得たのだった。

 シャープ本社で対面した戴社長に、私は「すり合わせ国際経営」など、私の考え方を説明した。

 2016年3月に出版した『シャープ「企業敗戦」の深層』では、従来の持論「すり合わせ国際経営」モデルを拡張した「すり合わせ国際経営2.0」を提案している。その考えを改めて述べさせてもらった。

「すり合わせ国際経営2.0」のコンセプトを図解すると以下のようになる(図2)。

【図2】「すり合わせ国際経営2.0」のコンセプト
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 このモデルの第1の肝は、実空間における『「すり合わせ」による「知識共創」』だ。

「すり合わせ」とは、一言でいうと、「複雑に依存する要素からなるシステムを紐解き、解を見出すこと」である。また、「お互いの知識を共有し相手の状況を見ながら微調整を繰り返す」とも言える。日本は、組織間で協力して「すり合わせ」て、ともに価値創造する、特にモノより知識を創造する「知識共創」が得意である。

 この「『すり合わせ』による『知識共創』」を、日本で行うことが重要である。研究開発力を持ち、「すり合わせ」の得意な日本企業が最も力を発揮できる分野だからだ。

 一方、この「すり合わせ」と対極にある考え方が、「モジュール化」である。「モジュール化」とは、一言でいうと、複雑なシステムを小さな部分に分割し、これらを組み立てることである。

 例を挙げると、アップルがiPhoneを構想しデザインし、日本や韓国から液晶や半導体の「モジュール」を集め、鴻海が組み立てる、といった構図だ。鴻海は、単なる組立だけでなく、生産技術を取り込んでいた。しかし、鴻海の主事業である電子機器受託生産(EMS)は、利益率が低い。このため、鴻海は、上流への事業拡大を狙って、ブランドと研究開発力を持つシャープに投資したのだ。

 第2の肝は、「すり合わせ」で「知識共創」したものを、どのようにグローバルに展開するか、つまり「知識発散」と名づけているプロセスである。生産コストや、後のマーケットを考慮して、グローバルな最適な場所で生産するのがよい。つまり「最適生産地」だ。

「知識共創」を日本で行い、グローバルな最適国で生産する。これが「すり合わせ国際経営」の要諦である。