米朝首脳会談でドナルド・トランプ米大統領が日本人の拉致問題を提起し、金正恩朝鮮労働党委員長は「安倍晋三首相と会ってもよい。オープンだ」と述べていたとされる。
その後は元の木阿弥みたいに国営放送は「拉致問題は存在しない」「日本の妄言」などと発言しているようであるが、米朝の首脳が昨年やり合った非難応酬と同じく、一種の駆け引きであろう。
ともあれ、大統領が金委員から否定的でない返事を引き出したことから、日朝首脳会談の可能性が模索されているともみられる。安倍首相も日朝の首脳が会って解決すべき問題である趣旨の発言をしている。
拉致問題には本来米国は関係なく、日本と北朝鮮間で解決すべき問題であることは言うまでもない。しかし、なかなか進展してこなかった。
その点で、今回の米朝首脳会談を通じて北朝鮮に対して影響力を持つことになったトランプ大統領が直接日本人拉致問題を提起し、それに対して金委員長が語った言葉は一定の重みがある。
2002年9月の小泉純一郎首相(当時)の訪朝に携わり、去る6月21日の日朝国交正常化推進議連総会に出席した田中均元外務審議官は、安倍首相が拉致問題の提起をトランプ米大統領に依頼したことについて、「恥ずかしい」との認識を示した(時事通信社 2018/06/21)とされる。
しかし、帰国した5人の扱いなどをめぐる発言などからは、田中氏こそが「拉致」という事実に真剣に向き合っていなかったことを暴露している。
委員長発言を契機に、日本政府はあらゆるチャンネルを活用して拉致被害者を取り戻すべきであるが、何度も騙された経緯を決して忘れず生かさなければならない。
12人の外に500人以上が拉致されている可能性
ただ、一抹の不安がある。
ここで確認しなければならないことは、「拉致被害者」という用語が固有名詞化され、政府が認定した17人という狭い範囲に限定してしまっているのではないかということである。また、17人のうち既に5人は解放され、子供たちも含め帰国している。
従って、現在の政府認定は12人であり、この被害者をとり戻すことはもちろんであるが、その他にも拉致の疑いがもたれる日本人が多数いることを忘れてはならない。