2010年末から、全国で「タイガーマスク現象」と呼ばれる慈善行為が相次いでいる。

 発端は12月25日に群馬県中央児童相談所の玄関先に新品のランドセル10個が「伊達直人」と記した紙片と共に置かれていたことによる。

 「伊達直人」とは梶原一騎原作の漫画『タイガーマスク』の主人公の名前であり、孤児院出身の彼が覆面レスラー・タイガーマスクであることを伏せながら、自分が育った孤児院にファイトマネーを贈り続けることから、何者かがその名前を借りたと思われる。

 その後、寄付行為はどんどん拡大し、各地の児童養護施設や児童相談所に、ランドセルだけでなくエンピツやノート等の文房具や文具券、さらには野菜、焼き豚、カニ、米といった食料品、ついには現金や金塊まで届けられて、名前も「矢吹丈」から「坂本竜馬」まで思いつく限りの「覆面」が用いられている。

 「タイガーマスク現象」は今や全国に広がり、寄付は1000件を超えて、とどまるところを知らない活況を呈している。

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 トピックな話題だけに、週刊誌やワイドショーでも特集が組まれて、社会学者や教育評論家たちがコメントを寄せていた。

 基本的にはいずれも同じような内容だ。日本には寄付文化がないため、話題になった行為に触発されて隠れていた慈善の気持ちに火がついたのではないか。ただし、ランドセルというのは贈る側の思い入れとしては分かるが、新入学時に自治体から購入費が支給されているため、実際には足りている。それよりも就職難の折から、18歳で施設を出たあとの身の振り方のほうが問題で、寄付を一過性の行為にとどめるのではなく、児童養護施設の現状や児童虐待が激増している社会的な背景にも関心を持ってもらいたい、というものだ。

 実は、私も似たような感想を抱いていた。

 しかし、1月18日になって、細川律夫厚生労働大臣が児童養護施設の職員を増員するための予算として100億円以上の増額を約束したことで、「タイガーマスク現象」は新たな段階に入った。

 児童養護施設に対してはすでに800億円の予算が計上されていたが、それは現状を維持するためのものであって、施設の関係者が以前から要望していた職員の増員は事実上の門前払いになっていた。