四国電力の伊方原発3号機(愛媛県)の運転差し止めを求める住民訴訟で、広島高裁は12月13日、広島地裁の決定をくつがえし、来年(2018年)9月まで運転を差し止める仮処分決定を出した。高裁で原発の運転を差し止めたのは初めてだが、その理由はなんと、熊本県にある阿蘇山の大噴火である。
伊方3号機は原子力規制委員会の審査に合格して再稼働し、今は定期検査中だが、この決定で来年1月に運転を再開することは不可能になった。今回の事件が深刻なのは、規制委員会が合格と認めた原発の運転を裁判所が差し止めたことだ。これでは電力会社は何を基準に運転したらいいのだろうか。
「1万年に1度の大噴火」のリスクで原発を止めた
今回の広島高裁の決定要旨の論理は分かりにくいが、争点は単純である。「火山以外の争点については新規制基準は合理的で、規制委員会の判断も合理的だ」と認め、問題を火山の大噴火に絞っている。
規制委員会の火山の安全審査についての内規には、原発から半径160キロメートル以内の火山の「過去最大の噴火規模を想定し、設計対応不可能な火砕流が原発に到達する可能性が十分小さいかどうかを評価する」と書かれている。この半径には、伊方原発から130キロメートル離れた阿蘇山が含まれ、その「カルデラ噴火」のリスクが争点になった。
過去最大の噴火は9万年前と推定されるが、そういう大規模な噴火が起こった場合、火砕流が伊方原発に到達する可能性が「十分低いとはいえないので立地は認められない」というのが、今回の決定の結論である。
しかし野々上裁判長も認めるように、そういう破局的噴火が発生するのは「日本の火山全体で1万年に1度とされている一方、仮に阿蘇において同規模の破局的噴火が起きた場合には、周辺100キロメートル程度が火砕流のために壊滅状態になる」。
これは国の防災対策でも想定していない日本滅亡の危機で、九州では数百万人が死亡するだろう。そういう状況の対策として最優先に考えるべきなのは原発事故ではなく、火砕流の被害をどう減らすかである。