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 クラウドにビッグデータ、そしてIoT(モノのインターネット)にAI(人工知能)・・・。デジタルテクノロジーの進化と浸透により、社会や産業のさまざまなシーンで新たな価値が生まれつつある。デジタルテクノロジーを起点とする価値創造、すなわちデジタルトランスフォーメーションの潮流が、大きなうねりとなって、日々の生活やビジネスの隅々にまで行きわたりそうだ。

 今後のデジタルトランスフォーメーションの行方を見通すうえで無視できないテクノロジーの一つとして、ある通信技術の動向に注目が集まっている。それが「LPWA(Low Power Wide Area)」だ。

 なぜLPWAが脚光を浴びているのか、これからビジネスにどのようなインパクトを与えるのか。本稿では何回かに分けて、このような経営的視点からLPWAの実像を紐解いていこう。

災害対策から見守りまで、幅広いLPWAの用途

 端的に言えば、LPWAは無線センサーネットワーク技術である。「Low Power Wide Area」が示すように「低消費電力」で「広範囲」をカバーする無線通信網の構築を可能にする。LPWAを用いて構築したネットワークを「LPWAN(LPWA Network)」と呼ぶこともある。

 考えられるLPWAの用途は実に幅広い。公共サービスから産業活動、個人の生活にいたるまで、すべてを挙げるのが困難なほど多くの応用例が想定されている。

 公共サービスであれば、自然災害対策の用途が考えられる。河川の水位などのデータをネットワーク経由で集めて監視し、氾濫、崖の崩落、ダムの決壊を予見して近隣の住民を守る。そのほか、橋梁やトンネルなどの劣化状況を把握して適切な維持管理に役立てることも想定される。

 産業分野で分かりやすい応用例は物流・輸送管理の効率化である。トラック、タクシー、バスの位置をネットワーク経由で把握/トラッキングすることで、きめ細かい配車や運行、配送と貨物の監視を可能にする。また、プラント設備の稼働状況を遠隔監視するネットワークにLPWAを用い、異常を検知したり故障を予防したりしようとする例もある。

 ICTの活用があまり進んでいなかった第1次産業も、LPWAの応用によって様変わりする可能性が見えてきた。水田の温度や湿度、肥料の状態などを測定したデータを収集すれば、重労働である灌漑(かんがい)の作業を自動化することができる。測定した情報に基づいて農作物の生育に最適な環境を整えることで、品質と収量の向上効果も期待できる。

 生活の領域では、地域振興や市民生活の利便性向上を目指すスマートシティやスマートコミュニティを支える技術としてLPWAへの期待が大きい。児童・高齢者の見守りやホームセキュリティ、家電の遠隔制御をはじめとするホームオートメーションの分野でもLPWAの活用が見込まれる。