イノベーションの第6の機会──「認識の変化をとらえる」
「コップに『半分入っている』と『半分空である』とは、量的に同じである。だが、意味は全く違う。取るべき行動も違う。世の中の認識が『半分入っている』から、『半分空である』に変わるとき、イノベーションの機会が生まれる」
(『イノベーションと企業家精神』ピーター・ドラッカー著、上田惇生訳、ダイヤモンド社)
食塩より安全な農薬はいっぱいある
農薬は、一般の消費者にとってネガティブな印象を持たれる農業資材です。初期の、まだ原始的な時代の農薬には危険性の高いものがあったのと、いわゆる反農薬運動によってこのイメージは作られたと言っていいでしょう。
しかし、有機化学の産物である農薬は、有機化学の発展に応じて進歩を繰り返してきました。現在、売られている農薬の安全性はかなりのものです。急性毒性(摂取したらすぐ死ぬタイプの毒性)を挙げてみましょう。急性毒性の強さを表す指標に「LD50」(Lethal Dose 50:半数致死量)というものがあります。
例えば「急性毒性、経口摂取(口から摂取)のLD50が3000ミリグラム/キログラム」とは、体重1キロにつき3グラム。すなわち、体重50キロの人が150グラムを一度に口から摂取すると2人に1人が死亡するという意味となります。数値が大きいほど安全性は高くなります。
現在、日本で売られている農薬のLD50を調べると3000ミリグラム/キログラムなどまだ危険な方で、5000とか12000ミリグラム/キログラムなんて農薬もよく見つかります。
読者の皆さんにとって一番なじみがあって、LD50=3000ミリグラム/キログラムの毒性を持つ物質とは何でしょうか。それは食塩です。農薬の安全性は、それほどに向上しているのです。
なぜ遺伝子組み換え作物は嫌われたのか
農薬と同じく、ネガティブなイメージを持たれているものに遺伝子組み換え作物(GM)があります。
日本、そして欧州で遺伝子組み換え作物が大々的に喧伝されたのは2001年。紹介されたのは、除草剤耐性を持つ大豆や、害虫耐性を持つトウモロコシでした。開発したのは、米国のバイオ化学メーカー、モンサントです。これが日本と欧州の社会で猛烈な反発を受けました。