いよいよデジタルはビジネスにおける構造の根幹を支えるようになり、世界は大きく変わろうとしている。これまでも企業内でデジタル化は進んでいた。とはいえ、業務を効率化するためなど、電卓が高度に発展したようなものだった。業界を構成する企業群にしても、ビジネスの構造も大きく変化していない。
ところが近年デジタル化により業界やビジネス構造に地殻変動が起きている。それが「デジタルトランスフォーメーション」と呼ばれる潮流だ。アメリカ発祥の配車サービス「UBER」が分かりやすい。これまではタクシー会社が車やドライバーを有し、ドライバーは駅やホテルで順番に客を乗せ、目的地に着いたら車内で精算していた。UBERは車もドライバーも自社で保有することなく、移動したい人と運転できる人をマッチングさせることでビジネスにしている。デジタルな仕組みやデータでビジネスが成立している。
UBERや類似サービスの普及でアメリカのサンフランシスコでは地元のタクシー会社が破産するなど、既存のタクシー会社が打撃を受けている。人が移動するときの行動も変わりつつある。客はスマートフォンから迎車要請から精算まですませられるようになった。こうしたデジタル化による劇的な変化が様々な業界で起きている。
経済圏を形成するようになったAPI
デジタルで実現する基本的な仕組みにはAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)がある。本来APIはプログラムを結びつける接着剤のようなものだ。APIは機能をコールして(呼び出して)使うため、インターフェースの先にある機能や処理もセットで捉えられることもある。昔からAPIを通じてあらゆる機能や処理が企業内システム間で結びつけられ、システムが構築されてきた。
APIそのものは目新しくはないが、近年APIは企業や業界を越えオープンに展開されるようになってきた。さらには新しい市場や経済圏を構成するようにもなりつつある。これは「APIエコノミー」とも呼ばれている。
例えば金融サービス。いわゆるフィンテックだ。オンラインバンキングなどデジタルな金融サービスを利用するとき、これまでは自分が口座を持つ銀行が提供するサービスしか使えないのが通例だった。しかし近年では金融サービスに関連するAPIが次々に連携し、銀行の役割やお金の扱いも変わろうとしている。
個人で見ると、お金に関するデータがオンラインで収集できるようになってきている。個人事業主は銀行から入出金データ、カード会社からクレジットカードの利用履歴、交通系ICカードの利用履歴などをオンラインで収集し、会計管理の自動化や効率化に役立てている。会計管理や家計簿のクラウドサービスから各種データを収集できるようになっているところもある。
これほどまでに簡単にデータ連携ができることは、少し前まで考えられなかった。技術的に実現可能だとしても、企業が提供するサービスはビジネス戦略やセキュリティなどを理由に、その企業の顧客に限定されていたためだ。