竹内 私がFDA在職時に経験した事例ですが、事前にかなり著効を示すと聞いていた抗がん剤が、実際の有効性は既存薬との生存率は1カ月差しかなかったということがありました。その抗がん剤を再評価することになり、再評価の検討には2~300の症例数が必要なところを、その製薬企業は100例で出してきました。当時の話し合いで彼らが言うには、「その癌で余命6カ月と告知を受けた場合、既存薬は副作用が強く、モルヒネも多量に使用せざるを得ず、亡くなるまでのQOLが非常に悪い。だから、自分たちはこの新薬の有効性をQOLにターゲットを絞り開発する」ということでした。
当初FDAとしては、これは抗がん剤だから生存率で評価すべきだという議論がありました。しかしその抗がん剤の使用で、副作用の減弱、モルヒネの減量、最終的には体重増加もみられ、亡くなるまでの5カ月間家族とゆっくり過ごす時間ができました。この事例がきっかけで、FDAはCBR(Clinical Benefit Response)という概念をとり入れ、抗がん剤の指標としてQOLを要求するようになりました。こうした指標の変更により必要症例数は現実的になり、患者さん志向のエンドポイントで臨床開発を進めることが可能になります。今後優れた薬がどんどん出てくるなかで、100年以上前からの指標をアップデートしていくことは必要だと思っていて、新たな評価指標にも、RWDといった実臨床を反映したビッグデータの利活用に期待しています。
品川 臨床開発はチャレンジが必要ですが、サイエンスとしてこんなに興味深いものはないです。RWDの活用が加わることで、臨床研究だけでは得られなかった新たな知見や未知の発見に触れる可能性があります。私たちは、このようなデータを十分に駆使することで、患者さんにとって最適な成果をもたらす新薬をいち早く届けられるのではないかと考えています。さらに日本の競争力を高めていく上では、臨床開発の環境整備も必要です。
その中でも特に、医学における教育カリキュラムの充実と、電子カルテをはじめとするEHRの共有化が重要だと思っています。首相官邸に設置された健康・医療戦略推進本部でも、「臨床研究および治験」分野を課題の一つにしており、「人材育成」や「健康医療分野の情報通信技術(ICT)の活用とその促進」を施策の基本方針に盛り込んでいます。国がリーダーシップをとって推進していくことで、日本の研究開発分野が一層飛躍することを願っています。
次世代型の臨床開発支援モデルへの挑戦
品川 弊社では、生物統計の専門部門を立ち上げており、非常に優秀なリーダーがチームを率いています。お客様をはじめとする社外からも大きな期待が寄せられており、ビッグデータ時代の臨床開発支援として、生物統計をはじめとする専門性やケイパビリティーを研鑽し、患者さんへの貢献度を高めていきたいと考えています。
また、IMSとクインタイルズの統合を機に、両社でのRWDの利活用をもってインサイトを導きだすコンセプト「RWI=リアルワールド・インサイト」の取り組みを推進しています。クインタイルズIMSとして、グローバルプレイヤーと同じ理解でデータが見れて対等にコミュニケーションが取れるように、質・量ともに上げていきたいと思います。
一方で、RWDの重要性をアカデミアも含めて業界全体に、啓発していくことも重要です。当局とも日本の新薬の開発の環境をよくするために、コミュニケーション機会を増やしていけるようチャレンジしています。
1000人なり2000人なりの我々の組織一人ひとりを底上げしていくことが重要なのは間違いないことです。社内教育を充実させながら、竹内先生のような社外のご支援をいただき、社員の知識と理解のレベルを上げていき、それを新薬の開発に活かしていきたいと考えています。それによって患者さんのQOLや予後の向上につながっていけばいいなと思いますね。
竹内 僕は臨床統計のデータを見る立場ですが、CROはデータの活用機会と相まって、最も課題抽出に接する機会がある業種だと思います。数多くの臨床試験を通して得た豊富な経験で、価値の高いノウハウやインサイトが蓄積されるでしょうから、疾患に対する最適なアクセスを理解し、研究ができるのはCROの方々ではないでしょうか。
品川 私は臨床も続けているのですが、時折、末期のがん患者さんが訪れます。数日ごとに受診して外来で腹水を何リットルも抜いている患者さんもいらっしゃる。そういう患者さんを見るたびに、「投与するだけでさっと症状が消える薬が早く出てこないかな」と強く思います。私が当社に籍を置くバックグラウンドはそこにあるので、その思いとともに一歩ずつ努力を続けていきたいと思います。
本日は、先生の明晰な解説により、私自身気づきにつながるお話をお聞きすることができました。どうもありがとうございました。
(終了)
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プロフィール
かながわクリニカルリサーチ戦略研究センター長
1991年11月Department of Biostatistics, Harvard School of Public Health(ハーバード大学公衆衛生学大学院生物統計学部)にて生物統計学における博士号を取得。
同年12月にFDA(US Food and Drug Administration,米国食品医薬品局)に入局。
1999年4月に北里大学薬学部に臨床統計学研究室を開設して教授に就任。
2000年1月に、ハーバード大学公衆衛生学大学院生物統計学部と北里大学薬学部臨床統計部門との間に学術交流協定を結び、「北里・ハーバードシンポジウム」を、2014年まで毎年開催した。
2007年Distinguished Alum Award from Harvard School of Public Healthを受賞。
2012年、Harvard School of Public HealthのAdjunct Professorに就任。
2014年に神奈川県顧問(レギュラトリーサイエンス担当)に就任し、かながわクリニカルリサーチ戦略研究センターを立ち上げ、2015年よりセンター長を務めている。
臨床開発事業本部長
1990年慶応義塾大学医学部卒業、同年精神神経科医局入局
95年より現在に至るまで休日は川崎市内の病院で非常勤内科医師として勤務
96年ノバルティス(旧チバガイギー社)臨床開発部入社
98年グラクソ・スミスクライン(旧日本グラクソ)入社、安全性管理業務に携わる
2001年アストラゼネカ入社、臨床開発部所属
05年ヤンセンファーマ入社、マーケティング部所属
10年6月クインタイルズ、バイスプレジデント, Medicalとして入社
11年1月臨床開発事業本部長就任
15年10月シニアバイスプレジデント就任
1965年神奈川県出身
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