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全国には素晴らしい書店がいくつもある。(写真はイメージ)

(文:首藤 淳哉)

本屋、はじめました―新刊書店Title開業の記録
作者:辻山 良雄
出版社:苦楽堂
発売日:2017-01

 荻窪駅の改札を出て、手頃な惣菜の店などが並ぶ庶民的な品揃えの駅ビルを抜けると、目の前はもう青梅街道だ。青梅街道を左折したら吉祥寺方面へと歩きはじめよう。迷ってはいけない。ひたすら歩を進めるべし。ただ駅を離れるにつれてお店も少なくなってくるし、「ホントにこの道でいいのかな・・・」と次第に不安になってくることはあらかじめお伝えしておこう。

 しばらくすると目の前に環八通りとの交差点が現れる。どうかあと少しだけ頑張って欲しい。環八を渡ると、明らかに空気が変わったことに気づくはずだ。駅前の商業地域から住宅地に入ったためだが、それがお目当ての店が近づいたことを示す合図。やがて通りの右側に、年季の入った外壁に青いテントが映える素敵なお店が見えてくる。

 ガラス張りの入り口はオープンな雰囲気でとても入りやすい。入るとまず小さな平台が目に留まるだろう。小さいからって侮ってはいけない。本好きならそこに並ぶ本をひと目見ただけで、店主がどれだけ本を愛しているかがわかって嬉しくなるはずだ。

 あとはご自由にどうぞ。意外な発見に満ちた棚をじっくり眺めるのもいいし、2階のギャラリーをのぞいてみるのもいい。購入した本を店の奥にあるカフェに持ち込んで、よく吟味されたコーヒーやりんごジュース、ワインなどをお供に、時間を忘れて読みふけるのもおすすめだ。

 荻窪の「本屋Title(タイトル)」は、本好きの誰もが「こんなお店が近所にあったらなぁ」とため息をつくこと請合いの素晴らしい書店。駅から徒歩12~13分ほどかかるけれど、足を運ぶだけの価値は十分にある。『本屋、はじめました』は、店主の辻山良雄さんが、この素敵な書店を手探りでオープンするまでを綴った一冊だ。