韓国・ソウルの市街地。北朝鮮軍はソウルに通じる地下トンネルを掘っていた(写真はイメージ)

「アジアの世紀」は終わった――。こんな主張を展開する書籍がワシントンの国際問題関係者たちの間で話題になりつつある。

 アジアこそが世界の経済成長、技術革新、人口増加、そして繁栄と安定の源泉だとうたわれて久しい。しかし本書は、アジア、太平洋地域に明るい希望が満ちていた時代は終わりつつあると断言する。その代わり、アジアは経済不況や紛争危機のリスクが高い重苦しい地域になってきたというのである。

 本書『アジアの世紀の終わり』(原題"The End of the Asian Century War, Stagnation, and the Risks to the World’s Most Dynamic Region")は、2017年1月の頭にイェール大学出版局から刊行された。著者はワシントンの大手研究所「AEI(American Enterprise Institute)」で日本研究部長を務めるマイケル・オースリン氏である。オースリン氏は日本研究から始まり、最近ではアジア全般の課題について活発に論評し、気鋭の学者として注目されている。

ソウルに通じる北朝鮮軍の地下トンネル

"The End of the Asian Century"の表紙

 20世紀後半から21世紀にかけて、アジアや太平洋地域は目覚ましい経済成長を達成し、政治的、社会的、文化的にも北米や欧州などに劣らぬ大きな存在感を示すようになった。そうした実績から、20世紀、あるいは21世紀の世界は「アジアの世紀」だとも呼ばれてきた。

 だが、オースリン氏の認識は大きく異なる。アジア各地での調査と研究に基づき、アジアの実態も展望も決して明るくはないという考察を提示するのだ。

 本書の冒頭でオースリン氏は、韓国の首都ソウルのすぐ近くにある北朝鮮軍の地下トンネル跡に足を踏み入れたときの体験を記している。韓国側が発見して接収したこのトンネルは、元々韓国を攻撃するために造られ、北朝鮮領内からわずか四十数キロのソウル市に通じていた。