会見で再びトランプ節さく裂、メディア叩きに支持者ら歓声

米ニューヨークで記者会見するドナルド・トランプ次期大統領(2017年1月11日撮影)。(c)AFP/DON EMMERT 〔AFPBB News

 アメリカのトランプ次期大統領の当選後初めての記者会見が行なわれたが、口汚いだけで中身はほとんどなかった。経済については、生産拠点の海外移転に「重い国境税」をかけると主張し、「中国や日本やメキシコに対する貿易赤字で多額の損失が出ている」と日本を名指しした。

 よくも悪くも、彼は平均的なアメリカ人だ。日本人の知っている知的なアメリカ人は東海岸の一部にいるだけで、中西部の白人はトランプのように太った田舎者である。普通のアメリカ人が普通の大統領を選ぶのは民主制として当然だが、世界経済への影響は大きい。

分断されたアメリカがトランプ大統領を生んだ

 これまでトランプは一貫してメキシコ人を敵視し、「国境に壁を築く」という計画を今回も表明した。これは突飛な笑い話と思われがちだが、アメリカ社会の最大の問題をシンボリックに表現している。

 アメリカの最大の問題は、国内が分断されていることだ。白人はキリスト教と英米文化を中心とするアメリカの伝統になじんでいるが、非白人は世界中から異質の文化を持ち込んでくる。かつてはその最大の要因は黒人で、1960年代の公民権運動以来、彼らを同化させてきた理念がポリティカル・コレクトネス(政治的な正しさ)だった。

 公民権運動は黒人差別をなくして「機会均等」を実現する運動だったが、黒人の置かれている劣悪な条件を是正するには、彼らを逆に優遇することが必要だという「結果の平等」の考え方が出てきた。それが大学の定員を人種ごとに割り当てるなどのアファーマティブ・アクション(積極的是正措置)だ。

 日本語に訳せないことで明らかなように、これらはアメリカの特殊な問題だが、90年代から流れが変わってきた。どこの国でもエリートは「多文化の共生」などのきれいごとを言うが、大衆は反対する。それが冷戦期の資本主義と社会主義の対立が終わったあと、エリートと大衆の対立を招いてポピュリズムを生んだのだ。

 特に重要なのは黒人ではなく、メキシコ人などのヒスパニック(スペイン語系)が増えてきたことだ。黒人はアメリカに同化しており、英語を話してキリスト教を信じているので、アメリカ的な価値を共有しているが、メキシコ人にはスペイン語しか話さない移民が多い。彼らは人口の15%を占め、そのうち不法移民が1000万人以上いる。

 これは他国にはどうでもいい問題だが、アメリカ人にとっては身近で深刻な問題であり、特に白人には不満が強い。そのタブーに挑戦したのがトランプだった。