博多の陥没事故、早急の埋め戻しは何よりでしたが、そもそもこんな事故が起きてしまうことが問題です。
事故の根本的な理由は何だったのでしょう。また再発の防止には何が必要なのでしょうか?
フナクイムシの叡智
今回の事故は、地下鉄工事での岩盤強度の見通しが甘かったことで起きたとみられます。詳細な報告は専門家の調査結果を見てからとして、ここではまず大前提として、「地下鉄は岩盤を掘っている」という事実の確認から始めましょう。
今回の陥没でも明らかだったように、表土の層は軟弱で、下に穴など開いてしまうとごゴソッと落ちてしまう。
前回、豆腐の例でお話しした通りです。地下鉄のトンネルを、そんなヤワなところに作ったらどうなるでしょう?
トンネルの周囲は豆腐だと思って下さい。少しでも隙間があったり、パックが弱いところがあれば、そこを突き破ってニュルニュルと入り込んで来てしまう。
軟弱な基盤に穴を掘る困難と対策の例として、フナクイムシがよく挙げられます。
最近は見かけないかもしれませんが、木造の船に小さな穴が開いていることがあります。二枚貝の一種であるフナクイムシが船倉を食い破っているものですが、もし木を食べて穴を開けるだけなら、どうなってしまうか考えてみましょう。
水を含んだ木材に穴を開ければ、木がさらに水を吸って膨張すれば、あっという間に穴は詰まってしまうでしょう。下手をすれば穴の中のフナクイムシ自身も押しつぶされてしまうかもしれない。
つまり、崩落してきたトンネルの中に人がいた場合、土砂が流れ込んで来たらどうなるか、というのと同じことになっている、
そこで賢いのが生き物ということになるのです。上にも記した通り、フナクイムシというのは二枚貝の仲間で、貝殻を分泌することができるんですね。穴を堀り、堀りたての穴に石灰質の固いカバー、つまり「殻」を作って、木材が穴を埋めないようにしているのです。
今回の博多の地下鉄工事がどのような工法であるのか。シールド工法とか、新オーストリア工法とか、様々な方法があります。詳細は確認できませんでしたが、いかなる工法であれ、掘ったトンネルは穴の側面を補強しないと崩落の危機があります。
ですから、側面を直ちに硬い壁で強化せねばならない事情に一切変わりはありません。シールド工法であればトンネルのセグメントが、新オーストリア工法であれば吹き付けコンクリートが、フナクイムシの「殻」と同じ役割を果たしている。