「ここはどこなのだろう」という問いに、旅人は常にさらされている。
例えば国の名前をもって、私たちはその不断の問いに答える。
「アフリカ南西部、ナミビアにいます」
ハガキにもそう書いた。地図上に引かれた線に囲まれた面として、場所を観念するのは簡単だ。たとえ恣意的な囲いであっても、外縁があるものは扱いやすい。
ナミビアの国境では両替詐欺に遭ったり、夜中に国境が閉じて外で仮眠する羽目になったりと、散々な経験ばかりだった。
しかし蓋を開けると国境の中はとても美しい場所だった。
世界最古のナミブ砂漠を含んだカラハリ砂漠、大きな水場まわりにライオンやチーターを見るエトーシャ国立公園、西岸沿いのシーフードに、フラミンゴ生息地(いや、フラミンゴは食べない)。
日本の人口密度の1%にも満たない、人口密度3人/平方キロメートルのこの国を、レンタカーで突っ切る。人っ子ひとりいないサバンナの果て、土埃のけむる中を、金色の夕陽が落ちていく。車の屋根に顔を出して、その夕陽の落ちる先を眺める。ここはどこだろう?
路傍に土色の草がしおれているのが目につく。生物と無生物の間にあるような感覚に陥る。