9月17日に発足した菅改造内閣は、国内・海外双方で、早くも厳しい試練に直面している。経済問題について言えば、海外に関連する試練として、為替相場の円高に今後どう対処していくかという点があるが、それに加えてここにきて急浮上してきたのが、尖閣諸島沖で発生した中国漁船と海上保安庁巡視船の衝突事件および中国人船長勾留が日中関係の急速な冷え込みにつながり、経済問題の領域にも拡大・波及してきた点である。
まず、為替相場。民主党代表選が終了した次の日である9月15日に日本の通貨当局が実施した円売り介入は、1日の円売り介入の規模としては過去最大になったと推測されている。少額にとどめず、いきなり大きな金額で実施することで、円高阻止に向けた当局の強い意志を印象付けて、介入警戒感を根付かせることを狙ったものと受け止められるが、そうした心理的なインパクトは、時間の経過とともに、どうしても薄れてくる。また、9月21日の米連邦公開市場委員会(FOMC)声明文が必要に応じた追加緩和の用意があることを明言する内容だったことから、ドルは全般に売られやすくなった。さらに、9月23日の日米首脳会談を控えているタイミングでの円売り介入実施は政治的に難しいのではないかという見方も出て、同日の米欧市場で、ドル/円相場は一時84.26円まで円高に動く場面があった。
その後、日米首脳会談が予定通り行われ、日米同盟をさらに強化していくことで両首脳は一致したが、日本時間9月24日午前9時現在、この会談で為替相場に関連してどのようなやりとりが行われたかの詳細は伝わってきていない。
当面のドル/円相場は、介入警戒感と米国の追加緩和観測との「綱引き」を続けるものと予想される。米FOMC声明文が米連邦準備理事会(FRB)の法的な責務を引き合いに出しながら物価面に焦点をあてた記述を繰り返したことなどからみて、バーナンキ議長は、今後出てくる経済指標、特に物価と雇用の関連が弱いものにとどまり、追加緩和の「必要がある」という点でFOMC内のコンセンサスを得られると判断した場合には、おそらく米国債の追加買い入れという形で追加緩和に動く腹積もりなのではないかと推測される(9月22日作成「米FOMCの『期待コントロール』」参照)。
仮に、米国がこのまま国債買い入れを増額する場合には、為替相場の円高圧力を回避するためというロジックから、日銀に対しても同様の措置を取るよう、政治サイドから圧力が加わってくる可能性が高い(日銀包囲網の端緒のような動きが、すでに部分的に観察されている。9月21日作成「日銀に厳しい2つの動き」参照)。日銀は、あらゆる政策の選択肢は排除しないという立場を前面に出して、今後のフリーハンドを維持する構えを見せるようになってきているが、財政規律を維持するための歯止めとしての「銀行券ルール」とのかね合いで、対応に苦慮することになるだろう。
次に、尖閣諸島問題。米紙ニューヨーク・タイムズは9月22日、ハイテク製品の製造に必要不可欠なレアアース(希土類)の日本向け通関業務に、中国の関税当局が9月21日からストップをかけていると報じた。国内では、9月23日の朝日新聞が朝刊で、複数の日中政府関係者の話をもとに、この問題を大きく取り上げた。「中国政府は対外的には対抗措置として公表しない一方で、経済活動の実態面を通じて日本への圧力を強めているとみられる」「中国政府が日本への広範な経済制裁措置を検討していることも新たにわかった」という。