『心が叫びたがってるんだ。』という映画を観た。過去のトラウマから喋れなくなった女の子を中心に、高校での人間関係を描く青春ストーリーだ。境遇はまるで違うが、その喋れない女の子のことが自分と重って、僕にとっては非常にグッとくる映画だった。
その少女のような、分かりやすいいびつさは、当然視界に入りやすい。しかし、ごくごく普通に見える人間の中にも、いびつさは存在する。この映画に登場する「ごくごく普通」をまさに体現するような少年が、こんな風に語る場面がある。
「喋りはするけど、思ったこととか本音とか、そういうことを言わないクセがついちゃってた。そのうち自分には、本当に言いたいことなんてないんじゃないかって、そんな風に思えてきた」
僕らは常にいびつなモンスターになる可能性を持っている。見えやすいか見えにくいかの違いがあるだけだ。いびつなモンスターを主人公にした3作品をどうぞ。
2人の世界には名前がない
住野よる『君の膵臓を食べたい』(双葉社)
「膵臓のこと隠さなくていいのって君だけだから、楽なんだよね」
近い将来死ぬことが確実なはつらつとした少女と、他人に関心を持たない少年が、瞬間的に奏でる音色。その美しさに、僕は虜になった。
高校生の主人公は、本を読むことだけで世界と関わっている少年だ。生身の人間とは積極的に関わろうとせず、友人もいない。一方の山内桜良は、明るく元気で、ポジティブなことにいちいち反応するクラスメートだ。クラスの人気者で、当然主人公と関わりを持つはずもない。しかしある日、主人公は桜良が家族以外の誰にも打ち明けていない秘密を知ってしまう。
膵臓の病気で、そう遠くない未来に死んでしまうということを。
主人公は動揺したが、彼にとっては関係ない世界だった。たまたま知った秘密を言いふらすつもりもないし、彼女と関わりを持とうとも考えなかった。
しかし、主人公の予想を超えた展開が待っていた。なんと桜良は、主人公と積極的に仲良くするようになったのだ。それまで、人との関わりを避けてきた彼には、あらゆることが初めての経験だった。2人で同じ委員になり、放課後や休日を共に過ごし、あまつさえ旅行に一緒に行きさえする。
だが、主人公には、彼女が何を考えているのか、まるで理解できない。自分のような、地味で面白くもない人間と、死期の迫っている今、一緒にいるだけの価値があるのだろうか・・・。