中国との領土争い、武力衝突の不安がアジアで増加

南シナ海(South China Sea)のアユンギン礁に向かうフィリピンの民間船(下)を妨害する中国海洋当局の船〔AFPBB News

 中国は、南シナ海では岩礁の埋め立て拡張工事を一方的に進め、東シナ海では、海底ガス田開発用の洋上施設を増設するなど、南シナ海と東シナ海における領域拡張を既成事実化する措置を強引に進めている。

 このような行動は、明らかに国連海洋法条約に違反するか、その恐れのある行動であり、既存の国際秩序に対するあからさまな挑戦である。

 中国のこのような行動の背景には、どのような軍事的原理・原則があるのかを、中国側から公表された文献に基づき分析する。

1 習近平指導部の意図と中国の『国防白書』に示された離島作戦に対する国防戦略

 習近平総書記は『光明日報』の2013年7月22日第1版に、「党の軍事指導理論の新たな創造の成果」と題して、軍事政策の基本方針を表明している。

 その中で、「中華民族の偉大なる復興は、中国人民の偉大な夢であり、国防と軍隊の建設はこの最高の利益のための職務に必ず服従しなければならない」との方針を示している。また、「強軍」という目標を提示し、そのために、「軍隊の現代的な戦略配置と路線計画を実現すること」が党の方針として明確にされたとしている。

 さらに、「強軍の魂」を堅持し、「党の軍隊に対する絶対的な指導を堅持」しつつ、「国家の主権と領土の無欠を守り抜き」、「部隊の情報化条件下での抑止力と実戦能力を絶えず向上すること」を要求している。

 なお、2010年3月以来何度か伝えられた非公式発言に続き、2013年4月、中国外務省の副報道局長は記者会見で、「釣魚島(尖閣諸島の中国名)は中国の領土主権に関する問題であり、当然、中国の核心的利益に属する」と表明している。

 このことは、中国の公式的方針に基づき、「領土の無欠」を守るためには、「核心的利益」である尖閣諸島が日本の施政下にある現状は、軍の任務の一環として、力をもってしても変更しなければならないことを意味している。

 このような習近平指導部の方針のもと、今年4月17日に中国国務院新聞弁公室は『国防白書: 三. 国の主権、安全、独立を守る』(『中国的軍事戦略(2015年5月)』)を発表した。

 その中では、「国際的なパワーバランスは世界の平和維持に有利な方向に向かい、国際情勢は平和、安定という基本的な態勢を保っている」と同時に、「局地的な情勢不安定やホットスポットをめぐる衝突が絶えない」との認識を示している。

 また「一部の国はアジア太平洋地域での軍事同盟を深化し、軍事プレゼンスを拡大し、しばしば緊張状態をつくり出している。一部の隣国は、中国の領土主権や海洋権益にかかわる問題で、それを複雑化、拡大する動きに出ており、日本は釣魚島問題で紛争を引き起こしている」として、暗にアジア太平洋へのリバランシング戦略をとる米国に対する警戒感を示すとともに、尖閣問題を持ち出し、日本を名指しで非難している。

 軍事戦略の基本方針としては、「積極防御のゆるぎない実行」をあげ、「侵略への備えと反撃の態勢を固め、分裂主義勢力を抑え込み、国境防衛、領海防衛、領空防衛を固め、国家の海洋権益と宇宙空間、サイバー空間の安全と利益を守る」としている。

 また、「国家主権の護持と領土保全のために、断固としてあらゆる必要な措置とをとる」とも表明している。ここでも、領域護持のためには、「あらゆる措置をとる」との決意を強調し、威嚇を加えている。「あらゆる措置」には核威嚇、軍事力の行使も含まれるとみるべきであろう。

 領域確保に関連した各軍種の運用については、陸軍では、全域機動型への転換、海上の島嶼に駐屯し島嶼を守る国境警備・海上防衛部隊などの機動作戦、陸軍航空部隊、特殊作戦能力の向上などがうたわれている。

 海軍では、遠洋での機動作戦能力、遠洋での非伝統的脅威に協力して対応する能力の向上、戦略的抑止と反撃の能力強化をうたっている。

 空軍では、攻防兼備、偵察早期警戒、指揮・通信ネットワークの整備、空中攻撃、戦略的投下輸送の構築、遠隔空中攻撃能力の向上を重視している。このように、陸海空軍ともに、遠洋での離島に対する統合作戦の実行能力向上に注力している。

 公安国境警備部隊は、国境・沿海地域と海上の安全や安定の維持、犯罪の取り締まり、緊急救援、国境警備・保安などの多様な任務を担任している。海の国境を越える漁業活動にメスを入れ、海上の治安を保つためのパトロールや法執行を強化し、海上の違法犯罪活動を厳しく取り締まっているとしている。

 また、民兵は、国境警備・海上防衛地域の軍隊・警察・民間による合同防衛、国境の防衛・警備に積極的に参加し、年間を通じて国境線や海上境界線でパトロールしているとしている。

 なお、公安・国境警備の部隊は武装警察の系列に組み込まれており、戦時には人民解放軍に協力して防衛作戦を行うと規定されている。また「国境警備、海上防衛、防空面のパトロール勤務を綿密に計画・実施」し、「常に怠りなく戦闘準備状態を維持する」ことを、各軍種を通じて強調している。

 以上から明らかなように、今回の中国の防衛白書は、中国が、尖閣諸島などに対する奇襲的な島嶼占領作戦を可能にする総合的な軍事力・警備力を整備する方針を国際社会に明示したものと解釈できる。